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狂言誘拐

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 「音がうるさいから肩身が狭いの、でも、正直云ってスター気分よ」
  車庫入れが完了して車の外に出た。助手席側のドアロックは中野がキイで行う。
 「ベンツは車内が静かだとか」
 「でもね、旦那の車、半年でコンピューターが壊れて、交換費用が百万よ」
「国産車は故障が少ないと云いますが、私が昔乗ってたのは右折しようとして交差点の真ん中に止まったら、煙が噴き出しましたよ」
サングラスとマスクの男女はほぼ満員の店内に入った。
「電気製品でも何でも、買ってすぐに必ず故障するって、云ってたひとがいるわ。そういう運命のひとっているのよね」
  ふたりはテーブル席があいていることに気付いてそこに向き合った。
 「牛丼のサイズは並の、サラダセットでいいでしょうか」
 「はい。注文するときは?」
 「その押しボタンスイッチを押してください」
 「これね。じゃあ、押すわよ」
  店のロゴ入りの丸いものが各テーブルとカウンターに、多数セットされていた。
店舗数が千なら、同じスイッチが二万個は製造されたことだろう。中には故障するものがあり、押しても一向に店員がオーダーを取りにこないこともある。
「いらっしゃいませ。こんにちは。ご注文は何になさいますか?」
 
作品名:狂言誘拐 作家名:マナーモード