狂言誘拐
黄色の表紙には、ライトブルーの本州上部の絵が印刷されていた。
「山の幸もありますけどね。小野寺さんは、東北を走り周ろうとしていたのかも知れませんね」
中野はエンジンを始動して道路に出た。だが、彼はすぐに停車してボンネットのロックを解除した。車の外に出てバッテリー液と、エンジンオイルの量を確認してから、中野は車内に戻った。
「さすがプロね」
「ていうか、途中で止まったら計画がまる潰れじゃないですか」
再び動力機関を始動して発進させた。住宅街の道路は角ごとに「止まれ」の標識があり、中野は必ず車を停止させた。踏切があるところでは、特にしっかりと停止した。
「全部きちんと止まるのね」
「事故ってタクシー会社から追放された奴とか、止まらないでパトロールカーに追われて天国まで突っ走ったのもいる。踏切を素通りする奴の神経は、女心よりも理解できません」
朝の大通りはまだ空いていた。中野は燃料が少ないのでLPGのスタンドを探していた。潰れたガソリンスタンドが急増していることに気づく。リーマンショック以来、新しくできたガソリンスタンドは思い出せなかった。
「携帯電話の充電は大丈夫ですか?」
中野は笑顔になっている。
「あっ、そうね。どうしよう」
亜矢子は慌てている。