狂言誘拐
食事が済むと食器洗いは中野がした。
「亜矢子さんは銭湯にも行ったことないのかな?」
中野は亜矢子の美しい裸身を想像していた。
「お風呂屋さんのことでしょ。行ってみたいわ」
「じゃあ、今から行ってみますか」
「そういえばここにはお風呂がないのね……一緒に入るの?」
「何云ってるんですか。男湯と女湯にわかれてますよ」
中野はまた顔を紅潮させながら、ふたつのコンビニの袋にそれぞれタオルと石鹸を入れた。
「歩いて二分のところに銭湯があります。シャンプーとリンスは番台で買ってください」
ふたりはまたサングラスとマスクで顔を隠し、冷えた空気の中を銭湯へ向かった。その途中、日中の混雑が想像できないくらいに、交通量が少ない大通りに出た。信号待ちをしながら、中野は運命の日は明後日だと思った。
「シャンプーはコンビニで買って行こうかな」
ひとりごとのように亜矢子がそう云った。眼の前を通り過ぎた無灯火の自転車には、極端に短いスカートの女子高生が乗っていた。