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狂言誘拐

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「文字を切り抜いて貼り付けるんですね?」
「文面は決まっているのよね」
「そうですね、ええと……お前の妻を誘拐した。急いで二億円を、古い一万円札で用意しろ」
 そう云うと急に鼓動が激しくなったのを、中野は感じた。
「それだけ?」
「……妻の命を喪いたくなければ、絶対に警察に通報するな」
 中野の顔色が悪くなった。もはや、犯罪者の気持ちになっている。
「経験があるみたい」
「ありませんよ。でも、何度かテレビドラマで見たような気がします」
「わたしも見たことあるような気がするわ」
「新聞か、週刊誌を切り抜いて貼ります」
「ちらし広告も使えるでしょう。段ボールにぎっしりよ」
 部屋の隅に積み上げたそれを亜矢子は見た。
「なるほど。それでゴミ袋に入れなかった」
「卓球のことを、親しみを込めて云うと?」
「……?」
「卓球の俗称」
「ピンポン……ピンポーン、正解というわけですね?」
 中野は笑った。
 
作品名:狂言誘拐 作家名:マナーモード