狂言誘拐
やがて四人での会食が始まった。
「いやいやこれは美味い。牛丼と云うよりは、極上のすき焼き丼ですね。これは」
眼を細めている中野のことばに嘘はないようだ。ほかの三人も、その表情はどれも満足気だった。
「ほんとうに美味しいわね。やっぱりわたしは、料理の天才かも」
「おみそ汁も素晴らしく美味しいわ。ねえ、お父さん」
中野の隣の席の美里も、終始笑顔で食事している。
「そうですね。美味しいです。カップラーメンの百倍くらい美味しい」
「小野寺。もう死んでもいいぞ」
「だけど、ぼくがずっと岩手に居たら、死んでいたかも知れません」
「あの大津波は、とても信じられないくらい、凄いものだったわ」
「考えてみれば、あの大地震のとき、傍に居た親子を車に乗せたから助かったんですね」
暫くの間、全員が食事に専念していた。そのあとで、食後のコーヒーをメイド服の若い女性が運んできた。
「コーヒーを飲みながら、ここで種明かしよ。テレビドラマのサスペンスで、最後の種明かしってあるでしょう。あれって、愉しいだろうなぁって、ずっと思ってたのよ」
「いつからですか?」
「三月八日からだと思うな」
「どんなことを隠していたんですか?」
「先ずはね。わたしがあなたと同じ色の同じ携帯を持ってたわよね。あれは全然偶然なんかじゃなかったの」
「えっ?!偶然じゃなかった?」