狂言誘拐
「そういうわけでもないけど、実は、おふたりにお願いしたいことがあるのよ」
相変わらず亜矢子は輝くような笑顔のままで云った。
「そうですか。歌ってほしいというなら、カラオケが必要ですよ」
中野は真面目な顔で云う。
「残念でした。とりあえずわたしの手料理を味見してくださいね」
「亜矢子さんの手料理は二度目ですね。わくわくしますよ」
「ぼくは初めてです。ありがとうございます」
栗原家の中はまるで一流ホテルのようだった。天井は恐ろしく高く、天窓からの春の陽射しが浮き浮きとした気分にさせる。
特大の素晴らしく美しいシャンデリアが、その光を受けて眼を奪う美しさである。そのシャンデリアの輝きを、美しい大理石の床は、鏡のように映している。多くの観葉植物や、色とりどりの花々が芳香を漂わせ、思わず深呼吸をしたくなる。壁にはまるで美術館のように、数多くの絵画が飾られている。圧巻は生の弦楽四重の演奏だ。中野は家の中に入った当初、随分音の良いオーディオシステムだと思っていたのだが、実は四人の若き美女たちによる素晴らしいライヴ演奏なのだった。彼女たちは亜矢子とお揃いの華やかなロングドレス姿だった。
「凄い大歓迎ですね。鳥肌ものですよ」
「ここはまるで天国です」