~双晶麗月~ 【その5】完
「いででで…!なにすんだ…!」
「ミシェが!ニズホッグに変われるはずなのに変わらないんだよ!」
「ニズホッグ?もしかして、こないだ図書室で見てたアレ…か!」
「ミシェは!ニズホッグになれるんだよ!そうすればやつらなんて……!」
「ちょっと待てよ」
興奮する私を抑え、雄吾はミシェルの方をじっと見て、何か考えてる様子だった。
「アイツ……変わらないんじゃなくて、[変われない]んじゃ……?」
「『変われない』だって?」
「あぁ…見てみろよアイツ…動きを封じたラシャを庇ってるだろ?」
「それはやつらにラシャを喰われないためにじゃないのか?」
「いや……それだけじゃねぇ気がする」
見てみると、ミシェルは襲い掛かってくる狼を避けつつ、ラシャの方に意識を向けている。ラシャの周りにはダークグリーンの光の輪が出来ている。結界……?
「あれって……ラシャへの結界が邪魔してるんじゃないよな……」
「そんなカンジだな……アイツ、あのまま殺られるんじゃねぇだろなァ……」
「殺られる?ミシェルが殺られるわけないだろ!」
だが、ミシェルの方を見てみると、襲ってくる狼から逃げているだけで、ほとんど術を使っていない。
なんで……!
不安になった私は、立ち上がろうとしたその時、足元に光るものに気付いた。
「あっ!……これでなんとかならないかな……」
「なんだよその剣」
「ミシェが私にくれたハンカチ……剣になったんだよ」
雄吾は刃渡り三十センチほどのその白く光る剣をじっと見た。
「でもよォそれでやつら倒すっつったって、あんなデカイやつら……」
「違うよ!ラシャの結界を解くんだ!」
「ばっ!ばか言ってんじゃねぇよ!結界を解くっつったってやれるわけねぇだろ!それにアイツは必要あるからラシャに結界張ってんだろうが!」
「いいんだよ!やってみなきゃわかんねぇこともあるだろ?」
そう言って私は、引き止める雄吾の手を振りほどき、ラシャがいる海岸の方へ走った。
「おい!咲夜っ!」
叫ぶ雄吾に返事もせず、海岸際まで夢中で走った。
私はミシェルのいる場所を見上げていると、ミシェルは狼からの刃(やいば)を避けつつ言った。
【大丈夫、心配しないで】
私はもう自分を止められなかった。
作品名:~双晶麗月~ 【その5】完 作家名:野琴 海生奈