~双晶麗月~ 【その5】完
「咲夜、ちょっといいですか?話がしたい」
そう言ったミシェルは、私を2階の寝室へ促し、いつものようにコーヒーを入れてくれた。私たちは開け放された窓から星空が映る海を見た。
「咲夜…高校入学の時のことを覚えていますか?あれは僕が術を使い、あなたをこの海の近くにいられるようにしたんです」
「やっぱり……そうだったんだ……」
「実はこの海は…ある条件が揃った時、フヴェルの泉と繋がります」
「フヴェルの泉……?」
「そうです。そしてフヴェルの泉と深層の海底も繋がります。それで僕は時期を待って、ラシャが開放する時すぐにあなたを消滅させられるよう、考えていました」
「……なぜ私を消滅させないんだよ」
ミシェルは小さくため息をつき、話し始めた。
「僕はこの特異稀な姿のために、隔離され、[対狼一族専属特殊兵器]としてのみ開放されるという生活をしてきました。能力も…確かにニズホッグに近いかもしれませんが、それでも僕はアース神族だと自負していました。
ですが皆僕を恐怖の目で見るんです。そう、僕の中でも…戦闘を繰り返せば繰り返すほど、ニズホッグそのものになっていくんではないかという感覚、不安、恐怖心があってそういう皆の視線を否定できない自分もいたんです。
僕は…ずっと誰も信じられませんでした。全てが嘘で、全てが憎悪で、全てが闇で……
この生活の大本を正せば、全てはフヴェルの宝石のせいだ、全ての原因は[ニズホッグ]にあるんだと思い、憎むこともしました。
そしてある時ニズホッグを消滅させるために、フヴェルの泉に潜った時のことです。
まだ幼かった僕ですが、戦闘能力には自信があった。意気揚々と潜っていくと、ニズホッグは僕に何もしないんです。それどころか温かい目で僕を見ている気がして……正直怖くなりました。
ですが[特殊兵器]と呼ばれた僕ですから、やれないことはないと向かって行ったんです。すると僕は簡単にニズホッグに飲み込まれ…
気付いた時にはどこかの泉の岸に上げられていました。そして僕の手にはあの白いハンカチが……実はあのハンカチは、フヴェルの泉の中では文字が出るんです。
〔負のものが口にする時世界は滅び、善のものが口にする時は世界は統一される〕と…。
作品名:~双晶麗月~ 【その5】完 作家名:野琴 海生奈