~双晶麗月~ 【その5】完
【何をしておるのじゃ!フィルグスの封印を解くことはならんぞ!】
白い翼で自らの体を覆うラシャは、放たれた黒い光をどんどん白くしてゆく。
「おい!あれなんなんだよ!どうなるんだよ!」
【今ラシャはフィルグスの封印を解こうとしています。ですが彼女の意思だけでは叶わない】
「じゃぁどうすんだよ!」
【咲夜…聞こえますか?ラシャに魂を呼応させて下さい。意思を強く持って…そして剣を……ラシャの両腕を…あの翼を切り落として……】
「なっ!何言ってんだよ!そんなことしたらラシャが消滅するんじゃねぇのか!」
魂を呼応…?
意思を強く持って…?
ミシェルが……そう言っているんだ……!
そう思った瞬間、動かなかった体に力が入る。そして私は再びゆっくりと目を開けた。
「咲夜!生きてるじゃねぇか!」
私はそう言って抱きしめてくる雄吾に体を起こされ、自らの力でニズの背中に立ち上がる。右手にはあの白い剣を握っている。
そして、黒い光と白い光に包まれたラシャを見据える。
【咲夜…ラシャの翼を切り落として…!】
だが私は躊躇(ためら)った。
「あの両腕を切り落とす…?それでラシャはどうなるんだ……本当にラシャを救えるのか…?」
【何を躊躇っているんです!狼一族の術が再び強化される前に!早く!】
「大丈夫だって!ラシャを切ったって、お前の腕がなくなるわけじゃねぇよ!」
【恐れているんですか!?大丈夫!意思を強く!】
ミシェルと雄吾が私へと何度も叫ぶ。
腕がなくなる…?私の?
消滅を怖がってる…?誰の消滅を…?
そうか…私が分身体……
でも私が痛むことはなんてことない…
それよりラシャを……
「ミシェ!ラシャの翼を切り落として、ラシャは助かるのか?」
「助かります!咲夜とラシャが魂を呼応すれば必ず…!」
「………わかった」
その瞬間私はニズの背中から飛び降りるようにラシャの方へ向かった。手には白剣。俯(うつむ)いていたラシャはゆっくりと顔を上げる。
そして赤い目を光らせ、私を見た。
私は一瞬にして恐怖に包まれた。
作品名:~双晶麗月~ 【その5】完 作家名:野琴 海生奈