Haus des Teufels
§ いざ、楽園に §
その日は、朝から厚い雲に覆われていた。
せっかくの休日なのに、惰眠を貪ることもシャワーをサボることも出来なかった。
そして……午前中の大半は、服に付いたクロコの毛取りで終ってしまった。
ガムテープが1本無くなった。
集合場所は私の店。
遅れると思っていた二人の淑女が、30分も前から到着していた。
行く気満々なのは、着ていた服の値段と入念な化粧で十分想像が付いた。
「私も、燕尾服を着ないとダメかな?」
私は、大袈裟に肩をすくめて聞いてみた。
「日が暮れる前には帰りたいな」
今日は、伊集院家と顔合わせだけの予定なのだ。
「マスターなら似合いそうだね」
由香里が珍しく、ネイビーブルーのミニワンピースを着ていた。
長く伸びた手足が、一段と際立った。
地面に手を着かなくても股下を通れそうだ。
「あたしも、暗くなる前には帰りますよ」
麗子は、鮮やかな黄色のミドル丈のパーティードレスを着ていた。
エルメスのバッグと同色で、サスガに場慣れているようだった。
「あっ! 遅れてスミマセン!」
拓人が時間ちょうどに到着した。
「おっ! 先輩、ミニスカートだ!」
彼の服装は、スニーカーにジーンズ、そして厚手のチェックのシャツ。
残念ながら、シャツをジーンズにINしてはいなかったが……
迷彩柄のリュックを、はちきれそうに膨らませて背負っていた。
何が入っているのかは、怖くて聞けなかったが……
運転手は私、車は麗子のマグナレッドのベンツ。
誰かが呟いた。
「いざ、楽園に」
作品名:Haus des Teufels 作家名:中村 美月