Haus des Teufels
§ 怪異 §
“助けてほしい”という言葉に、敏感に反応したのは麗子だった。
濡れた手を拭きながら、真子の隣に早足でやって来た。
「どうしたの? 何か困ったことでもあるのかな?」
義理と人情に厚い、昔気質の姉御だった。
今でも律儀に、約束の皿洗いをしているくらいだ。
「マスター、助けるんでしょうね」
麗子の目が少し潤み、私を石化した。
断れるのは、彼女の姑と……ペルセウスくらいだろう。
「詳しく話してごらん」
私は思わず返事をした。
真子は、恥ずかしそうにうつむいた。
下を向きながら話すのは、彼女の癖だった。
いつの間にか、彼女の周りにはスタッフが集まり、みんな真剣に聞き入った。
内容は、彼女の家で起こる不思議な現象だった。
ラップ音・ポルターガイスト・火の玉・ドッペルゲンガー、そして怪異の出現。
真子が生まれた10年前から始まったそうだ。
麗子は恐怖で青ざめていたが、由香里と拓人は落ち着いていた。
一番冷静だったのは、真子だった。
「真子ちゃん、そんな所に住んでいて、よく平気でいられるね」
拓人が半ば呆れて、そう言った。
「怖くないの?」
「私は慣れていますけど……」
彼女は戸惑った表情を浮かべた。
「ただ……他の人が恐ろしがって……」
彼女に恐怖を与えるモノ。
それは……彼女自身かもしれなかった。
作品名:Haus des Teufels 作家名:中村 美月