Haus des Teufels
§ 薔薇の下 §
老人が隣に並んだのが分ったが……
私はヒエログリフの配列の方が気になった。
「文がメチャクチャになっている」
私は肩をすくめ、大袈裟に悲しんでみせた。
「一面に100文字としても、六面全部正しい文に並べるには天文学的確率になる」
「一面は81文字じゃよ。それに……」
老人がガラスケースの鍵を開けた。
直に手を触れ立方体の底面を見せた。
「この面は全部解読できちょる」
お互い、初めて顔を会わせた。
長身で白髪の、品のいい老人だった。
「まさか、おまえさんが、神聖文字を読めるとは思わんかったわ」
「真子ちゃんの……おじいさま、ですね?」
「そうじゃよ。真子に呪いを掛けた張本人じゃ」
「呪い?」
老人は、天井を指差した。
薔薇の花の天蓋があった。
「君は、守れるかね?」
スブ・ロサ。
薔薇の下で語られた秘密は、決して口外してはいけない。
古代ローマの掟だった。
作品名:Haus des Teufels 作家名:中村 美月