Haus des Teufels
§ にゃん! §
“ 人々のうちにて、これを観照せし者は幸いなり。
暗き闇の冥府にて、参入せる者とせざる者との運命は同じからず。 ”
「エレウシス密儀・女神デーメーテールに捧げる賛歌」 ホメーロス
どこか高い所で、「ブラボ~!」と言う声と拍手の音が聞こえたような気がした。
同感だったが……その声すら、夢か現実かの判断が出来なかった。
少なくとも伊集院家以外の者は、そう感じたに違いない。
「みんな大丈夫?」
椿が走り寄って来た。
「先生は?」
「ご主人さまから電話が有って、出掛けられました」
柊が残念そうに答えた。
真子は、まだ一人で中庭の端に立っていた。
どう行動してよいのか戸惑っているのだろう。
私は静かに、彼女のそばに歩いて行った。
「お疲れさま、助かったよ」
そして、彼女の耳元でささやいた。
「ほら、下を向かないで。もっと胸を張って。クロコみたいな猫背になっちゃうぞ」
我ながら、酷い励まし方だと思った。
だが、彼女には通じたようだ。
「にゃん!」
真子は、素敵な返事をしてくれた。
今は……
この場に居合わせた誰もが、魔法より彼女の笑顔を望んでいた。
作品名:Haus des Teufels 作家名:中村 美月