Haus des Teufels
§ 真子の魔力 §
スペルが聞こえた。
カラス達の羽音にも打ち消されない、冴え渡る声だった。
呪文の発生源は中庭の入り口。
真子と椿の姿が見えた。
真子は、うつむきながら軽く目を閉じ……
肩の高さで天に向って両手を広げていた。
全身、微かに金色に輝く球体に包まれていた。
椿は、その横で片膝をつき彼女の警護をしていた。
そして、特殊部隊で使っていたハンドシグナルを送ってきた。
“動くな”だった。
「静かにして、動かないように」
私は、声が裏返らなかった事を神に感謝した。
標的が、私達から真子に替わった。
そして……カウント・ゼロ。
黒い竜巻は、一本の槍のように変化し彼女に襲い掛かった。
大気を切り裂く轟音を立て、衝撃波が木々を揺らした。
彼女は、ゆっくりと顔を上げた。
凛とした声が響く。
「להתראות」
「(消えなさい)」
彼女の体から、黄金色の閃光が放たれた。
空間に、光が満ち溢れる。
目を開けると……
吹き消されたロウソクの炎のように……
何百羽のカラスが消えていた。
作品名:Haus des Teufels 作家名:中村 美月