Haus des Teufels
§ 蝶の舞 §
達人同士、双方互角の場合、初撃をかわすのは難しいことではなかった。
数十分の一秒を誇る瞬発技は、先に手を出した方が必ず負ける。
そして、先手・先手と攻める者は、たいてい弱かった。
武術では、相手の力を利用して逆手を取る戦法が多いからだ。
強者は返し技を食らわないように、自分からは決して仕掛けていかないものである。
由香里は十分に知っているハズだが……。
柊は、寸前で由香里の正拳突きをかわした。
二波・三波と瞬速で続く蹴りや打ちも、全て紙一重で外した。
受ける、のではなくて全て逸らしていた。
複雑な、古流太極拳を見ているようだった。
彼は、由香里の一撃必殺の破壊力を知っていた。
誰一人として、動く者も語る者もいなかった。
ただ、息を飲み見つめていた。
二匹の蝶が、中庭の芝生の上で舞っているのを……。
作品名:Haus des Teufels 作家名:中村 美月