Haus des Teufels
§ 由香里 vs 柊 §
「私ので宜しければ、トレーニングウェアーを……」
椿が申し出た。
「お構いなく」
と、拓人が複雑な表情を浮かべながら言った。
「先輩。どうせ、その下はショートパンツなんでしょう?」
「な ん で、君が知ってるのかな?」
由香里が片方の眉を吊り上げて詰め寄った。
彼は死んだフリをしたが……無駄だった。
客間に繋がる中庭に、全員場所を移した。
まだ、厚い雲に覆われていたが寒くはなかった。
群れをなすカラスが、鳴き声を上げることなく見物をしていた。
給仕が手際よく、外のテーブルに飲食物を並べ終えた。
「久しぶりだな……戦う先輩を見るの」
拓人がビデオカメラを構えていた。
「いつも瞬速だから、今日こそは!」
ストレッチングをしていた柊の前に、スウェットパンツを借りた由香里が現れた。
当人達だけが、緊張していなかった。
「よろしく、お願いしまーす!」
と、由香里。
「お手柔らかに」
と、柊。
深々と対戦の礼をした後に……。
「いざ!」
先手は由香里。
獲物を見つけた猛禽類の急降下の速さだった。
柊の整った顔が、妖しく笑った。
作品名:Haus des Teufels 作家名:中村 美月