小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

スタル・チャイルド

INDEX|4ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 

キツネの面を被った者は素早い。なかなか攻撃があたらなかった。が、僕は小銃を隠し持っていたことを思い出してそれを抜いた。
『パンッ』
見事に命中し、キツネの面が割れた。でも・・・その素顔は・・・
見慣れた金髪に、青い空の目・・・
「リ・・・リー・・・ル?」
間違いなく、それはリールだった。ツゥっと額から細い血が流れた。リールはフッと力が抜けたように倒れた。
「リール、リール!!」
僕はリールの口元に手をあてて、呼吸をしていることを確認した。口元は・・・他人の血で血まみれだった・・・。

リールが・・・殺した・・・
でも何故・・・?

僕は昨夜からそれしか考えていなかった。
リールは額に浅い傷を負ったくらいで、幸い生きていた。が、なかなか目を覚まさない。僕は「相方」としてリールを看ることを名乗り出た。そして、上司(もちろん大人だが・・・)
にリールの過去について調べて貰うことにした。
「リールの過去、調べるのに苦労したよ。ワイヅ」
上司はそういいながらペラッと書類をめくり、僕に見せてくれた。
「・・・これは・・・」
「なかなか派手な過去だろう?まあ、もっともスタル・チャイルドでこんな過去を持ってるのが珍しいけどな」

リールの過去・・・それは・・・
「ぅ・・・」
僕が記憶を反芻していると、リールが声を上げて目を開けた。
「気がついたか!リール!!」
僕は考えていた事をすべて放りだして身を乗り出した。
「良かった・・・本当に良かった・・・」
僕はへなへなと椅子に腰掛けた。するとリールは思い返したように
「・・・ああ、私はまたやってしまったんですね・・・」
リールは遠い目をして、悲しい目をして言った。
「誰が私を止めてくれたんですか・・・?」
リールは悲しそうな目で僕に尋ねた。
「・・・ごめん、僕が撃った弾がリールに当たって・・・それでリールに怪我を・・・本当にごめん・・・」
僕は半分涙目になっていたと思う。こんな事、初めてだった。
「そうですか、感謝します。ワイヅ」
何故かリールはニコリと笑って僕を見ていた。

「・・・なあリール、悪いとは思ったんだけどな・・・お前の過去の事なんだけど・・・」
「悪い事ではないですよ。分かっていてくれて、それでも私を看ていてくれたことがとても嬉しいです」
リールの過去・・・それは、一家全員が何者かに殺されたというものだった。そして残ったリールは、殺された家族を喰っているキツネを見て狂乱したそうだ。それで、キツネの面を被るとフラッシュバックが起きるのかなんなのか、まるで獣のように人を殺すらしい・・・と、言うのが上司が調べた情報だった。真偽のことは定かではないが・・・。だから僕はリールに単刀直入に尋ねた。
「リール、本当に・・・その・・・お前の過去って・・・」
「・・・ええ、思い出すと頭痛がしますが・・・本当に、私の父さんや母さん、妹も・・・皆殺されていました」
そこまで言うとリールはうつむいた。
「なんで・・・」
「私の家系は代々傭兵か暗殺者でした。きっと・・・私達を邪魔に思う人間がいたのでしょうね」
リールの言葉の最後のあたりは震えていた。まるで涙を堪えるように。
「あ・・・すまない・・・聞いちゃまずかったな」
僕はどうしていいか分からなかった。人がうつむいて、悲しんで、辛いときどうしたらいいのか。僕は知らない。でも知っておかなければ、いけないような気がした。だから、僕はリールの頭を撫でた。
するとリールは驚いたように僕の顔をみた。そして僕の手を両手でぎゅっと握りしめた。
「・・・ワイヅ、これを約束してくれますか?」
「何を?」
「もし私の家族の仇が見つかって、私がその人間を殺したら・・・」
「殺したら?」
「私を殺して下さい」
突然の発言に僕は言葉を失った。
「何故・・・?」
するとリールは
「そうすることで・・・私は人間になれるから・・・」
と、悲しげに笑みを浮かべた。でも、僕は

「嫌だ」

と、ハッキリ言った。
「そんなことで人間になるなら・・・僕は人間にならない。そして、リールも人間になんかさせない!」
リールは僕の声の大きさに驚いたような顔をした。僕も、こんなに声が出るとは思わなかった。
「でも・・・私はその為に生きているようなものなんですよ?大切な人を殺した悪を
、殺すという悪でもって、悪を殺したという善で死ぬ・・・人間に、なれるじゃないですか?」
「そんなことさせるものか!!」
僕はもう怒鳴り散らした。
「リールは初めての相方だ。初めての・・・友達なんだ!そして僕に人間を教えてくれるただ一人の人なんだから!」
リールはしばらく目を見開いていたが、しばらくすると、フッとまた顔を伏せて小さな声で
「ありがとう」
と言った。そして僕の手を強く強く握りしめ
「ぅ・・ぅゎああああああ・・・・」
とボロボロと涙をこぼした。
その涙がなんなのかは分からない。僕がもっともっと・・・人間に近づいたら分かるのだろうか・・・?

「上司から聞いたよ。僕は別の人から護衛任務を、リールは別の人から暗殺任務を頼まれて、どっちも引き受けたって。」
僕はリンゴをシャリシャリと剥きながらリールに言った。リールはいつもの微笑みを浮かべながらリンゴを受け取り、口にした。
「まだ酸っぱいですねぇ・・・」
「・・・僕の話聞いてた?」
「聞いてましたよ。大人は強欲ですよね、二つ引き受けて二つ報酬を貰うだなんて」
「そうだね・・・」
酸っぱいなどと言いながらリールは美味しそうにリンゴを食べていた。
「で、こっからが本題で・・・」
「ん?何ですか?」
「凄く聞きにくいんだけど・・・コレ・・・」
僕は懐からヒビの入り、半分壊れたキツネの面を取り出した。
「何で、コレを被って暗殺したんだい?」
「・・・」
「いや、嫌なら言わなくてもいいけど・・・」
と、僕がキツネの面をしまおうとするとリールが面を掴み、僕の手から取った。
「・・・私を止めてくれた<相方>は、貴男が初めてです・・・・」
そして僕をジッとまっすぐに見てきた。
「だから、教えます。私の事を」

「私は実は手術を受けてこの身体になった訳ではないんですよ」
「え?」
フフッ、と意味深な笑みを浮かべてリールはキツネの面をなぞった。
「私は成長を止めるための手術しか受けていません。つまり・・・少年兵達が受けた手術しか受けてないんですよ。」
「ってことはつまり・・・最初からその戦闘能力を持っていたのか?」
「まあ、そうですね。でもコレだけは特別です。」
リールはキツネの面をじっと見つめた。
「私は元々暗殺者でした。でも・・・例の事件があってから、暗殺という行動そのものが出来なくなりました・・・ですから、コレを被るんです。コレを被ると、私は過去の・・・生々しい、残酷すぎる記憶がフラッシュバックとなって一時的に記憶が飛ぶんです。だから暗殺した、という記憶も飛ぶのです。そしてその代わりにとてつもないくらいの戦闘能力を手にすることもできるんです。」
でも・・・と、リールは続けた。
「私がこれを被ったらもう最期。誰かが私からこの面を外させるか、壊すかしないと・・・私は暴走します。」
僕は発砲してリールを撃って仮面を壊した事を思い出した。
作品名:スタル・チャイルド 作家名:ユウグレ