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スタル・チャイルド

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僕が外に出るとあちこちで煙が上がっていた。あちらこちらで同胞や敵が倒れている。僕は彼らに駆け寄った。息も何もない。

死んでいる。

彼らは何を思い何のために死んだのか。この前の涙を思い出した。
「パパパパパッ」
と、アサルトライフルの音がした。僕は後ろを振り向かずに横に跳んだ。そして跳んだ瞬間にリボルバーを引き抜き、視界に映った敵兵士を打ち抜いた。
一発。
兵士は倒れる。何を思ったんだい?教えてくれ。
そんな事は考えているヒマはない。<相方>の所へいかなければ。話の続きを、答えを知るためにも。

リールは敵兵士を圧倒していた。片手に伸縮自在の三つ叉の矛を持ち、片手にはマシンガンを持っていた。近寄れば矛の餌食に、撃ちあおうともすれば矛を軸として跳びはねその間にマシンガンで兵士を撃ち殺す。
なるほど・・・確かにこの実力なら地方ではなくこの砂漠の本部に来た理由も分かる・・・
「リール、大丈夫か?」
「問題ありませんよ。全て急所は外しています。一部は武器だけを破壊しました。ま、それでも向かってくる奴は殺しましたが」
「・・・・は?」
僕には意味が分からなかった。敵を殺すこと、それが『スタル・チャイルド』の役目・・・しかしリールはそれを放棄していることになる。
「おい、リール・・・何で全員殺さないんだ・・・?お前の実力なら出来るだろ?」
「私は『永遠を生きる子供』そして『人間になりたがっている子供』です。決して『大人』や『殺人者』になりたい訳じゃない。」
リールは敗走していく兵士を微笑みながら見送る。
意味が分からなかった。
「リール、『スタル・チャイルド』の基地を襲ったんだぞ。そんなのは殺すべ・・・」
僕が睨んで言うと、いきなり腹に衝撃を感じた。
柄を短くした矛の先で僕の腹をリールは思い切り突いたのだ。
体内のモノが逆流する。
「ゲホッ・・・ゴボッ・・・」
「殺すべき?何故ですか?」
そう言ったリールの目は恐ろしい程冷たかった。
「死ななければならない人間などどこにいるのです?」
「敵・・・が・・・いるじゃないか・・・」
「さきほどの話の続き・・・結論を言いましょう。」
リールはカシャンカシャンと矛の柄を伸ばして
「『人間』には善と悪が備わって居なければならないのですよ」
「善・・・・悪・・・?」
「そう、私は善悪を目指しています。だから命を無駄にしないモノは見逃します。無駄にしたい人は・・・徹底的に殺します。」
それが善悪じゃないですか?と、リールは返り血のついた顔を向け微笑んだ。砂漠の暑苦しい風が吹く。

この時初めて僕は人に対して恐怖を感じた。

「・・・私の戦いに恐怖を感じましたか?」
その夜リールは僕の部屋でくつろいでいた。僕はその問いに頷けなかった。しかし
「恐怖・・・感じたよ・・・」
と素直に言った。リールは穏やかに尋ねてきた。
「何でですか?」
「『人間』になるために・・・悪が必要だなんて思わなかったし、僕がやっていることが悪だったってことそれ自体が恐怖だったし、正直・・・リールが怖かった。」
「優しいんですね、貴男は」
とつぜんの言葉に僕は驚いた。リールは僕のベッドの上でごろごろしながら微笑んでいた。
「貴男が初めてですよ、そんな事を言ったのは。正直者はバカを見ると言いますが、貴男はバカではなさそうです。自分自身に恐怖を感じたようですからね。」
よいしょっと、とリールはベッドに座りなおして
「『人間』になるには恐怖がつきまといますよ。あと悲しみも。」
ニッコリ笑ってリールは続ける。
「この前貴男が泣いていた理由、それは貴男が『人間』として必要な何かを得たからです。何かはわかりませんが・・・『人間』になりたいならば悲しみと恐怖の覚悟が必要です。特に・・・・」
椅子に座っている僕にいきなりリールは顔を近づけて
「な、何?」
そして耳元で
「私達、『スタル・チャイルド』はね・・・」
と、言うと
「おやすみなさい」
と出て行ってしまった。


恐怖とその覚悟・・・僕は人間になりたい。人間でありたい。でも、感情を持つことがこんなにも怖いなんて・・・
僕は時々壊れたように眠れなくなる。今夜もほとんど眠くなかった。寝ようとしても、リールの鮮やかかつ容赦ない攻撃が瞼の裏に張り付いて消えない。リールは決して怖い人じゃない。ただ、区別をはっきりとつけているだけ。自分の中で、自分を殺そうとするものと殺そうとしないものの区別をつけているだけ。言い換えれば、自分に本当の殺意を向けてくる相手には本気の殺意の牙を向け、逃げるものには慈悲の眼差しを向けているのだ。
僕はそんなことしたことない。敵はみんな殺して・・・殺していた・・・そしてそれが善だと思っていた。しかしリールは違うと言った。
「死ぬべき人間などいない。それを殺すのが悪であり、生かそうとするのが善である」
と。僕にはわからない。物心ついたときにはもう手は血で汚れていたのだから。
僕はその夜ずっと眠らずにそればかり考えていた。


ある日、僕は、医務室でリールを看ていた。ことの発端は、昨日の夜のことである・・・。

昨日の夜、僕は手術を受けてから初めての任務である「要人護衛」の任務についていた。だが、リールは別の任務があると言ってなにやら悲しげな顔をして先に行ってしまった。
僕やリールのように手術を受けた「スタルチャイルド」は何人かの少年兵を連れて行っても良いことになっている。だから、僕は腕の良い何人かの少年兵を連れて、護衛にあたる某国の将軍の元へ向かった。

事件はその夜に起きた。

某国将軍は建物の最上階である五階に宿泊していた。僕は建物の入り口と、将軍の部屋の前を少年兵で固めた。が、いきなり部屋の中から叫び声があがった。
「があああああ!」
僕は驚いた。
「何事ですか、将軍!?」
バンッと扉を開けて僕と二人の少年兵は部屋に駆け込んだ。
そこには、首から血を流し倒れた将軍、そして怪しげなキツネの面を被った真っ黒い身なりをした人間が居た。白いキツネの面には血が飛び散っていた。
「な・・・何者だ!!」
僕達は銃を構えて威嚇した。しかし、キツネの面は動かない。ただじっと僕達を見つめていた。そしていきなり、うなり声をあげて僕達に襲いかかってきたのだ。
「うぅぅ・・・がああああっ!!」
まるで本物の獣のように、床を這うようにその者は一人の少年兵に襲いかかった。
「う、うわっ!」
襲われた少年兵はとっさに銃を発砲した。が、キツネの面の者にはあたらない。もの凄い速度でその者は少年兵を倒し、首を食い千切った。
ブシュッと音がして、血が舞い上がる。
「くそっ!」
もう一人の少年兵と僕は各々アサルトライフルとリボルバーを構え発射した。
『ガガガガガガガガッ!』
発射した弾丸はすべて床に落ちた。キツネの面を被った者はいつの間にか剣を構えていて、その剣で僕達が放った弾丸を防いだのだ・・・
「嘘だろ・・・」
少年兵は舌打ちをして短剣を抜き、
「うおおおおおおおお!!」
とキツネの面にむかって駆けだした。相手も腰を低くして、獣のように少年兵に向かった。
『ザンッ』
と一閃。少年兵は派手に血を流して倒れた。
僕は、リボルバーを撃ち尽くすと南蛮刀を抜き接近戦に持ち込んだ。
作品名:スタル・チャイルド 作家名:ユウグレ