スタル・チャイルド
「だから先ほど言ったでしょう?<相方>で私を止めることが出来たのは貴男だけだと」
「・・・他の<相方>はどうなったんだ?」
「・・・・・・」
リールは食べていたリンゴを口元から離し、俯いた。
「殺し・・・たのか?」
「はい・・・」
続けてリールは言った。
「だから私はほとんど<相方>や<人>と関わりを持ったことがないのです。」
だから、とリールは僕を見て微笑みながら
「私はいつも一人でした・・・いえ、仮面を被ると獣になるのだから、2人とも言えますね・・・」
リールはもう僕を見てはいなかった。遠く、誰かを、きっと殺してしまった<相方>を見ているのだろう。
「止めるよ」
僕は遠い目をしているリールに唐突に宣言した。
「え?」
「リールが暴走したら、僕が止める。それなら・・・リールが悲しむ事は少なくなる。これならいいだろ?」
僕の言葉にリールはキョトンとした顔でいた。そしてくすくすと笑い始めた。
「何だよ」
ムッとして僕は言った。
「優しいですね。私の悲しみが減るなんて言ってくれたのは・・・ワイヅ、貴男が初めてですよ。皆、私を怖がってまるで爆弾を扱うかのように接してきてましたから」
『優しい』と言う言葉に僕は少し顔を赤くした。この感情は何だろう。
「ワイヅ、貴男が<相方>で私は良かったと思います。」
リールは僕の手を握りしめた。
「私は強いですよ?鍛錬を怠らないようにしてくださいね。」
とウフフっといつもの笑顔に戻った。
僕は安堵した。ああ、いつものリールだ。やっと、戻ってきた。
だから、僕も笑った。
もしかしたら、笑ったことなどこれが初めてだったかもしれない。
「おはようございます、ワイヅ」
次の日、僕の部屋の窓からリールはひょっこりと顔を出して挨拶をしてきた。もうちゃんと任務に行っても大丈夫だと診断されたようだ。
リールのいつもの笑顔、いつもの口調、僕はそれを、微笑みながら迎えることができた。
「おはよう、リール」
僕は心の底から微笑み、喜ぶ事を覚えた。いや、知ったという方が正しいか。こんなに嬉しいことは初めてだった。リール、初めての<相方>がくれたモノはとても素晴らしいモノだった。
リールが復帰してから数日後、僕が射撃場で練習をしていると一人の男の大人が来た。黒いスーツを着崩して、ここは射撃場だというのに煙草なんかふかしてる。僕はそいつとは旧知の縁だった。
「おう、ワイヅじゃないか。」
「なんだい?カーズ・ノワーさん」
「何だ何だ?手術受けたとたんに改まっちまって。」
ココでも撃たれたか?と笑いながら頭を指さし、カーズ・ノワーは言った。
黒い短い髪に黒い目、ぱっと見はクールな大人だけどしゃべり方はほとんど僕達子供と同じだ。僕は手術を受ける前まではカーズ直属の少年兵士だった。多分、10年くらいは護衛をしていたと思う。そして今もなおカーズは僕やリールの上司であり続けている。