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有明バッティングセンター【前編】

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車で行くこと約2時間、山あいに木造一軒家が見えてきた。

「ここよ。」

とエレーナが言い、右のウインカーを上げた。見るからに、古い、まるで山小屋
の様な一軒家が目前に迫ってきた。

(おいおい、お化け屋敷か? 肝試しするにはまだ日が高いぜ。)

俺は、車を降り、エレーナの後ろに従った。エレーナの豊満なヒップが軽快にゆ
れるのを眺めながら、山小屋へのゆるい坂道を登っていった。

「こんにちわ。 いる?」

古い引き戸を開けながら、エレーナは中に声を掛けた。

「あらぁ! エレーナちゃんじゃない! 久しぶりねぇ。元気にしてたの?」

奥から、声が聞こえた。言葉遣いは女言葉だが、確かに野太い男の声だった。中
に入ると、この家に似合わないアロハーシャツを来で、白髪交じりの長い髪を無
造作に後に束ねた男が両手を広げ、エレーナが抱きついてくるのを待つような姿
勢で、満面の笑みを浮かべて立っていた。年の頃は50代半ばといったところか。
痩せぎすの仙人のような体格をしていた。

「源ちゃん。お久しぶり。」

俺なんかこの場に居ないかの様に、お互いにハグをしあった。

(なんか、長い付き合いのようだな・・・)

「今日は珍しいお客さんを連れてきたわよ。今、話題の有明一郎さんよ。」

思い出したかの様ににエレーナが俺の方を振り返り、その男に紹介した。にこに
こ笑っていた顔が突然、キッっとしたきつい目をして俺を睨み付けた。さっきま
で穏やかで、やさしそうな顔つきだと思っていたが、この一瞬で変貌したその顔、
特に目つきは常人の物ではなかった。男が、体の中に気をぎゅっと凝縮させるの
を感じた。そして、それを俺に向けて一気に放った。俺はまるで突風に煽られる
ような感覚を覚え、後に倒れそうになるのをぐっとこらえながら、殆ど反射的に
というか、本能的にその男の目を睨み返していた。その間、1秒くらいの間だっ
たが、それはお互いの力量を認識しあうには十分の時間であった。