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有明バッティングセンター【前編】

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記者会見から一週間が過ぎ、マスコミの取材攻勢もいささか衰えた。なんといっ
ても、支配人の浩二が取材陣の相手をしてくれ、彼らの欲しがった俺の人となり
や、近況を浩二独特の語り口調でおもしろおかしく説明してくれたものだから、
ネタに事欠かず、あとは、契約交渉開始となってからとばかりに、引き上げて行
ったのだった。その後、エレーナからの連絡は無い。

ようやく俺も、センターに顔を出せる状態となった。早朝、客のまだ居ないセン
ターの鍵を開け、久しぶりに、野球ボールのなめし革の匂いを懐かしみながら室
内を見回した。背後から、

「社長、早くユニフォームに着替えてきて下さいよぅ。」

という声を聞き、振り返るとそこには自慢の一眼レフカメラを持った浩二が胸に
「有明BC」とプリントされた黒いTシャツを着て満面の笑みで立っていた。
まるで、カメラ小僧だ。

(社長って・・・まぁ、一応株式だから社長だが・・・)

まんざらでもない。

「おう、浩二、そのTシャツどうしたんだ?」

俺がそう聞くと、浩二は得意そうに後ろを向き、

「後ろはこうなってます。」

背中に今度は英語で「Ariake Batting Center」と書かれたプリントを得意げに見
せた。

「だから、それどうしたの?」

「Tシャツのプリント屋さんに頼んで、作ってもらったんすよ。スタッフTシャツ
ってやつっす。社長の分もありますよ。」

スタッフTシャツって、俺とお前しかいないじゃん。何事も形から入る浩二の性格
は俺と通ずるものがある。