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有明バッティングセンター【前編】

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一郎は浩二のインタビューの生放送を、管理室のテレビでカップ麺をすすりなが
ら見ていた。浩二の如才ない振る舞いを見るにつけ、

(あいつ、なかなかやるじゃないか、商売人の息子だけあって、客あしらいは堂
に入っている。)

と、なんだか頼もしく感じた。酒屋の息子で、よく店番に立つ浩二の新たな素質
を認識した瞬間であった。

(これで、おれのセンターも安泰だわ、浩二、ありがとうよ。)

心の中でそうつぶやきながら、カップ麺の汁を飲み干した。

携帯電話を見る。
誰からも着信が無い、もう夕刻になるというのに。

「詳しいことは後日連絡します。」

昨日、エレーナはそう言った。後日とは、今日のことではないのか。どうやって、
エレーナは俺と連絡を取るというのか。携帯番号も知らないはずなのに。仮に知
っていたとしても、相手の電話番号を登録していなければ、着信拒否をする設定
となっているこの携帯に彼女からの電話が掛かってくるはずもないのだ。

日の翳り始めた窓辺に影を長くして咲くクレマチスのその凛とした佇まいにエレ
ーナの姿を重ね合わせていた。

「お前に会いたいよ。」

やさしく、愛おしそうにクレマチスの花びらを撫でる一郎であった。