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有明バッティングセンター【前編】

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1時間後、2軍選手と報道陣がそれぞれの持ち場に付いた。

(さあて、さっきのお返しをさせて頂くとするか。)

念入りに準備運動を終えた俺は、バッターボックスに立った。完全になめきって
いるピッチャーの三浦は、ほとんど投球練習もなしに、さっさと終わせたいとい
うようなうんざりとした態度を見せながら、足元のロージンバッグを手に取った。
帽子をかぶり直し、キャッチャーとサインの交換を行った後、ゆっくりとワイン
ドアップ動作に入っていった。

それと同時に俺の目がスローモーションモードに切り替わった。完璧に!

(なんだ、この球は、なめとんのかこら!)

と思うほど、イージーな速球だ。

「カキーン」

完全にバットの真芯で捕らえていた。打球はセンター方向へものすごい勢いで飛
んで行き、防護ネットを越えて見えなくなった。

「おおー」

報道陣から驚きの声があがる。2軍調整中とはいえ、素人同然の中年男にホーム
ランを打たれ、面目丸つぶれの三浦の顔つきが変わった。一流のプロ選手がもつ
肉食獣の顔だ。

(おお、それそれ、そうこなくっちゃ。)

2球目。

さっきとは全然違う、ものすごい速さの剛速球が手元に食い込んできた。
しかし、今の俺は絶好調だ。動体視力と運動神経が絶妙な連携を見せる。

「カキーン」

またもや打球はライト方向へものすごい勢いで飛んで行き、防護ネットを越えて
行った。守備陣は手持ち無沙汰で、あしもとの土を足でこねて遊んでいる始末。

「三浦ぁ、もっと真剣にやれ!」

報道陣から野次が飛んだ。本気で決め球を投げ、それを打たれた三浦投手はむき
になって3球目に挑んだ。

「カキーン」

こんどはレフト線。同じ様に防護ネットを越えて見えなくなった。

(ふん、なんどやっても同じだぜ。)

4球目。

三浦の放ったボールは俺の頭めがけて、ものすごい勢いで飛んできた。しかし、
こっちはスローモーションモード。ギリギリまでボールを観察し、さっとスウェ
イバックしてボールを避けた。センターで父親が作った4号機の「デ」ボタン。
デッドボール対策用の投球で練習を積んできた甲斐があった。

報道陣は、ホームランそのものより、俺のこの回避動作に目を奪われた。
「見える」ということが真実味を帯びてきた瞬間であった。

(やりやがったな。若造。)

俺は次の打球をお返しとばかりに、ピッチャーライナーとして三浦の股間にお見
舞いしてやった。三浦はキャッチャーに腰を叩かれながら、しばらくの間マウン
ド上にうずくまっていた。

結局、最初の3振の後、ボール球以外の30球の内、29球を場外ホームラン、
1球をピッチャー前内野安打とし、俺の打者としての才能をまざまざと見せ付け
たのだった。

そんな様子をうれしそうに見つめるエレーナと対照的に、
驚いた様子で見つめる東京フライヤーズ監督、原口の姿がそこにあった。