有明バッティングセンター【前編】
俺が高校を卒業して家を出てから、親父は小学生リトルリーグの監督と、
西大1校のバッティングコーチを兼任していたらしい。
コンビニからセンターの管理室までの帰り道、野球部の面々から親父の功績
について少なからず情報を得ることができた。
彼らの話では、小学生リトルリーガーの為に、格安で施設を開放し、最新式の
投球マシンまで導入してバッティング、捕球の指導をしていたとのことである。
母親が言っていた親父の借金というのはこの事だったのか。
特に親父のバッティングセンスはプロ級のものだったらしく、ついには西大1校
のバッティングコーチまで兼任する様になって行った。
そういえば、俺が小学生の頃、ホームランコースのネット上に弓矢の的の様な
ものをライト、センター、レフト方向のそれぞれに括り付け、投球マシンから
繰り出される時速150kmの球を自由自在に打ち込んでいたのを覚えている。
「的に当てたら2000円だよ。」と純粋な小学生を誘っては小銭を稼いで
いたっけ・・・。
「かんちゃん、いや、コーチとはリトルリーグ以来の付き合いだったんです。」
彼の名は「安藤健太」。西大1校野球部の4番、ピッチャーで主将を勤めている。
「お、俺だって同じっす。今俺がレギュラーでいられるのもコーチのおかげなんっす。」
涙を浮かべながら話す大柄な、悪く言えば肥満体のこの男、名前を「木村浩二」
といい、同じく野球部の3番、キャッチャーで副主将だ。
二人とも高校3年生で、今夏の全国高校野球大会で引退が決まっている。
春の大会では見事優勝したが、この二人の活躍なくしては成し得なかっただろう。
「それじゃあ君たち、うちのセンターのマシンの使い方、良く知っているよね?
ちょっとおじさんと一緒に来て教えてくれないかな?」
画して、この二人と共に俺の第2の仕事場に向かったのだった。
この時、この二人がプロ野球界において旋風を巻き起こし、これからの俺の人生
に多大なる影響を及ぼすことになろうとは知る由もなかった。
作品名:有明バッティングセンター【前編】 作家名:ohmysky