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有明バッティングセンター【前編】

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「有明鑑蔵」。死んだ俺の父親の名だ。
母親によると、死因は心筋梗塞だそうだ。本当にあっけなくこの世を去ったとの
こと。俺が中学2年生の頃、両親は離婚し、姉は母親に、俺は父親に引き取られ
た。離婚後も両親は時折会っており、友達のような関係になっていた。

なぜ離婚したのか具体的な理由は知らないが、親父の借金問題ということらしい。
両親の遺伝子を強く引き継いだのか、俺もとうとうバツ1となってしまった。
しかし、いがみ合って別れたのならば2度と会うことは無いと思うのだが、実際、
かなり頻繁に連絡を取り合い、一緒に食事をしたりしていた事を覚えている。
・・・謎だ。

葬儀の席、久々に姉と対面することができた。「西村恭子」。
離婚後、母親の旧姓を名乗っている。
元プロテニスプレーヤーで、現在スポーツキャスターを務めている有名人だ。
俺は運動嫌いだったが、小中学校の運動会では、俺も姉も常に徒競走では1番
だった。運動神経は誰に似たのか、すこぶる良好だった様だ。
未だ独身。一生独身を貫くらしい。

「いっちゃん。会社辞めたんだって? 離婚もして、
何もかも無くなっちゃったね。」

はいはい、その通りです。事実を淡々と言う女だな。職業病か?

「うん、父さんのセンターでもやろうかなと思ってるよ。」と俺。

「野球嫌いの父さんのセンターを野球嫌いのいっちゃんが引き継ぐなんて、
やっていけるの?」

「父さんがやって行けてたんだから俺だってやってけるよ。きっと。」

「まぁ、みんなに迷惑かけない様にやってくれたら別にかまわないけど。」

うるせー女だなぁ。そんな事だから嫁にいけねぇんだよ。

「ところで姉ちゃん、ちょっと金貸してくれる?」

・・・父親譲りのダメおやじだ。