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有明バッティングセンター【前編】

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「エレーナさん、ふざけてもらっちゃ困りますよ。」

「いいえ、有明さん、フロントは大真面目ですよ。記者会見の時、必ずあなたは
ご自分の実力を問われるはずです。選手成績の無いあなたは、ご自分で実力を証
明しなければなりません。記者会見はその証明の場でもあるのです。同時にそれ
は、東京フライヤーズの球団生命をも掛かっているのです。会見後、あなたには
1軍練習用グラウンドで、2軍投手を相手に公開バッティング練習をして頂きま
す。その結果が、今後のあなたと、私たち球団の運命を左右する事になるでしょ
う。」

通常、記者会見といえば、都内の有名ホテルで行うのが通例だが、今回、わざわ
ざ1軍練習場の隣にある選手会館講堂で行うというのはこういうからくりがあっ
ての事だったのか。安っさんが俺に事情を説明しなかったのは、多分、姉の恭子
からの情報リークを心配しての事だと理解できる。俺も、まんまと騙されて、単
独インタビューとやらをやらされてしまったのだから。

「有明さんなら大丈夫、きっと実力を証明できますわ。スカウト陣もフロント陣
もあなたのことを信じています。」

エレーナが事も無げに明るくこう言った。

サーっと血の気が引くのが分かった。
車の窓を開け、風を浴びてたなびくエレーナの髪の毛に無数の蛇の頭が見えた。
俺を見つめるエレーナの眼差しが、メデューサの呪いの視線に感じられた。
俺の体が石になって行く・・・

今日の運勢、ワースト1位。
「何事も思うように進まず、びっくりするような出来事に頭を悩ませる。」
・・・・その通りだ。

ラッキーアイテムはピンクのネクタイ。
ピンクのネクタイは、図らずもメデューサによって剥ぎ取られてしまっていた。
代わりに、ユニフォームという鎧を身にまとい、戦いに挑む事となった。