有明バッティングセンター【前編】
今日は朝から、マシンの改造で悪戦苦闘していた。
一番新しい4号機の投球スピードを上げるため、モーターの回転速度を調整して
いたのだ。今のMAXスピードは時速150km。これでは、近頃のプロ選手の投球
スピードには対応できない。少なくとも165kmまでは増速しなければならない。
モーターの回転限界はまだ余裕を残している様だが、トルクを上げると左右の
回転スピードがどうしてもアンバランスとなり、射出されたボールはとんでも
ない所へ飛んでいってしまう。
(うーん。どうしたものか。)
午後近くまで、油まみれになって悪戦苦闘を続け、ようやく解決の糸口を見つけ
だした。メーカより取り寄せたインバータを装着して高圧領域の電圧を安定的に
供給することでモータトルクを安定させる試みが効を奏し始めていた。
「シユッ ズバーン」
トルク調整され、回転速度を増したマシンから繰り出された直球は、実に時速
168kmのスピードで衝撃緩衝板にぶち当たった。
(よし、直球速度調整はこれで良し。あとは変化球の微妙な回転速度調整だな。)
変化球の回転調整は、左右のモータの回転数を微妙に変えて行うが、それが結構
難しい。実際の投球を移したビデオと、姉の恭子に頼んで借りた、番組で使った
ハイパースローモーションの映像から、ボールの回転方向と回転速度を計算して、
モータを制御するシーケンサーと呼ばれる機械にパソコンからデータ入力を行った。
「シュッ ガシャーン」
(おっと!)
ボールは思わぬ方向へ飛び、衝撃緩衝板からかなり外れてバットスタンドのポール
を直撃した。
作品名:有明バッティングセンター【前編】 作家名:ohmysky