有明バッティングセンター【前編】
(これは、大変な事になってしまったな。)
握った手にじっとりと汗が染み出すのを感じた。
その後、両投手共に一歩も引かず、3者凡退の山を築いて0対0の9回表となった。
「ここまで両投手完全試合なんて試合、見たこと無いですわ。」
と監督の西脇が半ば興奮を抑えきれぬ様子で話しかけてきた。
ベンチ横に置いてあるラジオの実況アナウンサーが西脇と同じ様なことを更に
興奮した口調で繰り返していた。
「監督、これからが勝負です。球筋を分析しましたから、このイニングの采配は
俺に任せてください。」
好きなおもちゃを取られて怒りはしないかと、祈るような気持ちで俺はこう切り
出した。
「ほな、よろしゅう頼んます。」
予想に反して、あっけらかんと西脇は言った。
2番からのクリーンナップ。絶好の打線だ。最初の打者は例によって多彩な変化
球に翻弄され、三振に終わっていた。1アウトランナーなし。
ここから俺の采配は始まった。
作品名:有明バッティングセンター【前編】 作家名:ohmysky