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有明バッティングセンター【前編】

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「見えたぞ健太! お前の最高のストレートを投げてみろ!」

俺の言葉に、健太の顔がプロ選手の持つそれに変わった。

「コーチ、これが打てますか!」

言いながら、ワインドアップ動作に入った。

3球目。
ものすごい速球が彼の鞭のような全身からまるで怪獣漫画に出てくるヒーローの
ビーム光線の様に放たれた。
後で聞いた話だが、このときのスピードは時速167kmだったらしい。
重心を左の軸足に乗せ、そこから腰を素早く回転させた、腰の回転動作に連動し
て肘、肩、腕とエネルギーを増幅させて行く。
1球目と回転速度の変わらないそのボールを俺の目は正確に捉えていた。

「カキーン」

(よし、真芯で捉えた!)

バットはストレスなく回転の反動をボールに伝え、振り切れて行った。
打球はセンターの土手を越え、土手の上に立てられたネットの上空をさらに越え
て見えなくなった。

しばらくの沈黙。

「ちょっと、コーチ、何してくれてんねん! 本番も近いから安藤に自信持た
そう思ってけし掛けたのに、ほんまにどえらいホームラン打ってもうたら、スパ
ーリングパートナーが選手をノックアウトしてもうたみたいなもんやんけ! 
大人げないわぁ。」

と西脇が監督よろしくまくし立てた。

(おっと、やっちまったか?)

「ごめんごめん、まぐれまぐれ! たまたまタイミングあっちまったんだよ。」

ヒグラシが鳴き始めたグランドで、ずっと打球の見えなくなった方向を見つめた
まま身じろぎ1つしなかった健太が満面の笑顔を浮かべながら振り返った。

「コーチ、感動しました! 僕の決め球をあそこまで運んだのはコーチだけです!
これからは、どうやったら打たれなくなるのかも教えてください! お願いしま
す。」

「こらこら、それは俺の仕事や!」

西脇が膨れっ面で言った。
内心は、健太がダメージを受けていなかった事に安堵しているくせに。

そんな3人のやり取りをバックネット裏からじっと見つめていた1人の男、
東京フライヤーズ スカウトマン 安田英男。何やらにやりとほくそ笑んでいた。