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有明バッティングセンター【前編】

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父親から譲り受けたバッティングセンターを経営することになった。
その名も「有明バッティングセンター」。
有名とは言えない高校を卒業し、これまた有名とは言えない会社に就職して
平凡なサラリーマン生活を送っていた俺に、お袋からの電話。
それから俺の人生が変わった。

10年以上も音信不通を貫いていた親父が死んだというのだ。
いつも酒臭く、朝からパチンコ三昧だった親父。大嫌いだった。
そんな親父が俺に残してくれた唯一の財産というか、負債と言うべきか、
それがこの「有明バッティングセンター」だ。

小学生の時は、仲良くなりたい友ダチをさそってはタダバッティングに通い、
俺の接待場として重宝したものだが、今となっては野球文化史の化石となり
つつある骨董的な価値もない設備を有するこのセンターのオーナー様である。

「いまごろバッティングセンターかよ」である。
・・・・さあて、どうしたものか。

敷地は結構広いし、駐車場もあるから、更地にしてアパートでも建てようかしら。
しかし、先立つものがない。
アルバイトからの昇格で、しがないサラリーマンを10数年続け、退職金は
退職とともに別れた妻と娘に殆んどくれてやったし、気ままな独身生活をこの
バッティングセンターの親父として過ごすのも悪くないかもしれない。
こうして俺の「有明バッティングセンター」経営がスタートした。

俺の名は「有明一郎」。
当年とって35歳、中年おやじだ。いや、もうじじいか。
妻1人、娘1人の3人家族・・・だった。
家族の中では相手にされない空気のような存在となって久しかったと思う。
とりわけ娘には「うざい」、「くさい」などと罵られ、空気よりは意識される
存在となっていた様だが・・・。