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有明バッティングセンター【前編】

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新型マシン開発計画を聞かされてから1ヶ月、マネージャー兼、支配人の浩二が
仕掛けたフランチャイズプロモーションのおかげで、全国のバッティングセンタ
ーから、契約の申し込みが殺到し、俺はその選定と契約手続きに慌ただしい毎日
を過ごしていた。俺が住んでいた6畳一間の管理室は事務処理用のコピー機、デ
スク、パソコン、応接セットが導入され、さながら事務所と化して行った。つい
に俺は愛用の炬燵と鉢植えのクレマチスを抱え、「我が家」を放り出される形と
なった。

「一緒に暮らしましょう。」

エレーナの誘いに甘え、クリスマスイブの夜を一緒に過ごした日から俺のクレマ
チスと彼女のクレマチスが同じ窓の陽を並んで浴びる事となった。その日の朝、
ふと目覚めると、彼女はマントルピースの上に飾ってあった彼、今は亡き天才レ
ーサー中嶋実のポートレートをダンボール箱の中に仕舞い込んでいた。一つ一つ
いとおしそうに見つめながら。そんな彼女の後ろに立ち、俺はそっと肩を包み込
む様に腕を回した。

「私、これからはあなただけを見つめて生きるわ。」

そう呟くエレーナの首筋に唇を押し付けてこう言った。

「前にも言ったけど、俺はお前の全てを愛しているんだ。今でも彼の事を愛して
いる純粋で一途なお前を、おれは愛しているんだよ。だからそんな事しないで、
そのまま飾って置こうよ。」

「一郎、あなたって、やさしいのね。」

「いやいや、その代わりもっと大きい俺の写真をあいつの写真の横に置かせても
らうぜ。」

「フフフ、わかったわ。」

それから二人で、ダンボール箱の中に仕舞い込まれたポートレートをもとのマン
トルピースに戻し、

(中嶋、彼女のことは俺に任せとけ、絶対に幸せにしてやるから。)

と、写真の中で微笑む彼にそっと呟いた。

こうして、俺とエレーナの同棲生活がスタートしたのだった。