有明バッティングセンター【前編】
「で、その試作品というのが出来るのはいつごろになるんですか?」
と聞くと、
「安田さんが、フライヤーズの資料室から各球団の主要ピッチャーと大リーグの
主要ピッチャーの映像を持ってきてくれたら、データ解析を始めます。ハードウ
ェアの試作品は来月に出来上がるので、そこに基本となるプログラムをローディ
ングして、それからが有明さんの出番です。」
と後藤が安田の方をちらっと見ながら答えた。
(今が12月だから、来年1月以降ということになるな。)
安田はうんとうなずいて腕時計の針を眼を細めて見ながら、
「そのデータはもうそろそろここに来ますよ。愛しい人と一緒にね。」
そういって、俺にウィンクをした。
(愛しい人?・・・広報のエレーナか。)
安田の鋭い目は、人の能力を見抜くだけではない様だ。
(あっ!)
俺は、浩二からもらったエレーナの写真が飾ってあるベッドサイドのテーブルを
(しまった!)という思いで見つめていた。安田の鋭い目は、その観察力から来
るものだったらしい。
その頃、膨大な量のDVDを抱えたエレーナが、白い吐息を弾ませながら管理室
の玄関に立った。バット職人、西脇源五郎と会った日以来、お互いに多忙を極め、
会う事が出来ずにいた。ドアノブに手を掛けるのを少し躊躇し、乱れた髪の毛を
整えた。エレーナは、呼吸を整え、すっと上を見上げた。
外には雪がちらついていた。
作品名:有明バッティングセンター【前編】 作家名:ohmysky