【無幻真天楼 第十三回・弐】雨が止んだなら
「……」
握った京助の手をときたま撫でる緊那羅が小さくため息を吐く
ざぁざぁという雨はまだ止まずもしかしたらさっきより降り方が強くなった気がした
布団に寝る京助は微動すらせず不安になった緊那羅がそっと京助の鼻に手をかざして呼吸があることを確かめ安堵の表情で京助の頭を撫でる
「…京助…」
頭から手を離しながら名前を呟く
ゴトゴトゴトゴトゴト…
何か重たいものを引きずる音が部屋の前で止まった
「緊那羅様」
「ヒマ子…さん?」
戸を開けずに名前を呼ばれた緊那羅が京助の手を離して立ち上がり戸を開けるとヒマ子が俯いて立っていた
「…京様のご容体はいかがかと…」
両葉をこすり合わせて言うヒマ子がチラと緊那羅を見る
「あ…まだ眠ってるっちゃ…」
「そうですか…」
緊那羅が答えるとヒマ子が静かに言いそして黙り込んだ
「…あ…のねヒマ子さん…京助は…」
「大丈夫ですわ緊那羅様京様なら大丈夫です」
無理に笑顔を作って話す緊那羅にヒマ子が笑顔で言う
「京様ですもの…そうでしょう? 私が全力で愛しているんですのよ? 妻を残していなくなるような方ではございませんわ。そんな薄情な方は愛せませんわ」
茎に葉をついてヒマ子がきっぱりと言い切るときょとんとして聞いていた緊那羅が眉を下げて微笑んだ
「ヒマ子さん…」
「…だからそんな顔で京様を看病なさらないでください」
ヒマ子が同じように眉を下げた笑顔を緊那羅に向ける
「目が覚めたとき貴方がそんな顔をしていたら逆に心配されますわ…京様が見たいのは…そんな顔ではないと思います」
ヒマ子の葉が緊那羅の目元に伸び浮かんでいた涙を拭った
「…私負けたとは思っていませんからね」
「…うん」
「今は一時休戦という形ですからね」
「え…?; あ…うん?;」
「わかりまして!?」
「は…い;」
ビシッと強く言うヒマ子にちょいビビリがちに緊那羅が返す
「よろしいですわ」
ヒマ子が頷きゴトゴト鉢を引きずりながら部屋を後にする
「あ…ヒマ子さんっ!!」
「あまり大きな声を出さないほうがよろしいのではないのですか? …なんでしょう」
緊那羅がヒマ子を呼び止めた
「ありがとうだっちゃ」
「…その笑顔、京様が起きたときに見せて差し上げるのにとっておいてくださいませ」
そう言い残しゴトゴトという音をつれてヒマ子が廊下の角をまがった
作品名:【無幻真天楼 第十三回・弐】雨が止んだなら 作家名:島原あゆむ