【無幻真天楼 第十三回・弐】雨が止んだなら
熱もない
ただ眠っているようで
でもこんなに静かに寝る京助は初めて見た
いつも起こしにくると布団が壁の方まで吹っ飛んでいて
腹も背中も出ていて
下手したら半分尻もでてたりして
よだれ垂らして
でも幸せそうな顔をしていて
「京助…」
小玉電球のオレンジ色の明かりの下で緊那羅が小さく名前を呼んだ
それにたいしての返事はなく
「京助あのね…私…」
それでも緊那羅は話し続ける
「…あ…のね」
正座した膝の上にあった手をぎゅっと握った緊那羅がゆっくり顔をあげた
ざぁざぁと一向に止む気配がなく降り続く雨の音
いつもならこんなに長く続く沈黙には耐えられない京助が激しく突っ込みを入れるだろう
無駄に動きを入れてキレよくスパーンっと
「…ぷ…」
何かを思い出したのか緊那羅が小さく吹き出した
「京助…私…」
眉を下げた笑顔で緊那羅が京助の手を握る
「…信じてるっちゃ…」
両手で京助の手を包んで緊那羅が小さく言った
「明日エビフライとふのりとイモの味噌汁と…あと何か京助の食べたいもの作るっちゃね」
返ってこないとわかっている返事
「坂田とか…今日晩飯食べて帰るんだっちゃかね? なら早く起きないと残ってないかもしれないっちゃ」
それでも緊那羅は話し続ける
「…ね、京助」
京助の手を強く握った緊那羅が微笑んだ
作品名:【無幻真天楼 第十三回・弐】雨が止んだなら 作家名:島原あゆむ