【無幻真天楼 第十三回・弐】雨が止んだなら
緊那羅の口元に笑みが生まれた
その笑みはただの微笑みではなくどことなく強い覚悟と決意がこめられた笑みで
「大丈夫だっちゃ…ありがとう…」
そう呟くとぎゅっと抱き締められるような感覚がした
「ありがとう…操」
緊那羅も抱き締め返し小さく言う
途端に今まで抱き締めていたものが消えて緊那羅の体を優しく暖かな風が包み込んだ
今度は自分自身の体を抱き締めた緊那羅がゆっくりと目を開ける
うっすらと見え始めたのは掌
「…あ…」
緊那羅の顔が綻んでその掌に手を伸ばす
緊那羅にとって見慣れた掌
その掌に緊那羅の手が触れるとザアッと舞ったのは桜の花弁
その中で緊那羅が強く掌を握りしめる
絶対放さないというように強く強く握りしめた
いつのまにか握っていた掌の中に感じた小さな固く薄い物体の感覚
もう片方の手を伸ばし両手で手を握った緊那羅が顔を上げて目を細めて笑った
「……」
京助の横たわる布団に覆い被さるように倒れ込む緊那羅
緊那羅の手の中にはぼんやりと光を放ち続ける竜の宝珠があった
「緊那羅…」
ピクリとも動かない二人を阿修羅がただ黙ってみている
「…京助」
名前を読んでも反応は返ってこない
「…頑張り…な…」
今自分にできるのはただ待つことだけ
阿修羅が唇を噛んで俯いた
あの時もそうだった
何もできずに後から知らされて自分に腹が立ってそれを竜へと上へとぶつけた
「…オライは…」
阿修羅が腰に下げられたカンブリを取りそれを撫でる
三つ開いた穴
間抜けな顔
「…オライにそっくりやけ…」
フッと阿修羅が笑う
ギリっとカンブリをもつ手に力が入った
緊那羅の手の中で光る竜の宝珠
「…運命っていうのは…時っつーもんは…」
遠くでゴロゴロと雷が鳴る音がする
ざぁざぁといまだ降り続く雨
コチコチと時を刻む音
「…無きゃないであったらあったで…まるで時っつーのは…」
一瞬の光そして
ドォン!!
作品名:【無幻真天楼 第十三回・弐】雨が止んだなら 作家名:島原あゆむ