【無幻真天楼 第十三回・弐】雨が止んだなら
光の中でぎゅっと目を瞑っていた緊那羅の右手を誰かが握った
同じくらいの大きさのその手に握られてどうしてか安心感が生まれてその手を緊那羅も握り返した
音は何も聞こえない
目を瞑っているせいで何も見えない
握っている手から伝わってくる想い
…京助…
「ぎゃああああぁ!!」
「やっかましい!;」
シャーっというシャワーの音に勝って聞こえる叫び声
「消毒だ消毒ッ!!」
湯気のたつ浴槽の縁に腰かけた素っ裸の京助が足に湯をかけられ泣き叫ぶ
「やだー! もういい! もうとれたー!!」
「ちゃんと洗わないと腐るぞって!ほら左!!」
操がそんな京助を無視して今度は左足を持った
「いやだー! いやだいやだ痛い痛いー!!」
「根性みせろ! 男だろ!」
操が京助を押さえてシャワーを膝の傷に当てた
「いだぁああああ!!」
またも響く断末魔の叫び声
「ほぎゃあああああ!!!!」
それに続けと言わんばかりに悠助の泣き声も家中に響いた
「ひっひっ…ひったっ」
泣きしゃっくりで言いたいことが言えない京助が操のシャツを掴む
「っつたく…散々心配かけさせやがって…」
ぶつぶつ言いながら京助の脛に流れこびりついていた血を手で優しく擦り落とす
「…っめんなさい…ごめんなさいぃ…」
操にしがみついてぐしぐしと京助が謝った
「…濡れたまんまで抱きつくなよな…俺まで濡れたじゃんか…」
肩につけられた京助の頭を撫でながら操がため息をつく
「…ごめんな」
操が小さく謝る
「…スイカでかいほうやるからさ」
「メロンがいい…」
「贅沢抜かせ;」
キュっと蛇口をひねって操がシャワーを止めた
作品名:【無幻真天楼 第十三回・弐】雨が止んだなら 作家名:島原あゆむ