【無幻真天楼 第十三回・弐】雨が止んだなら
部屋の戸が開くと阿修羅が振り向いた
「…何持ってるんきに?」
部屋に入ってきた緊那羅の手には竜の宝珠の入った箱の他に白いタオルがにぎられていた
「操のタオルだっちゃ」
緊那羅が阿修羅と向かい合って座り竜の宝珠の入った箱を畳の上に置く
「お守り…というか…」
緊那羅が苦笑いで頬を掻いた
【柴野ストアー】と印刷された他人にとってはどこのお宅にでもあるような何の変てつもないただのタオル
そのタオルを握りしめ緊那羅がまっすぐ阿修羅を見る
「…いい目しとるの」
阿修羅がニッと口の土師をあげて笑った
「私はどうすればいいんだっちゃ?」
緊那羅が聞くと阿修羅が竜の宝珠が入った箱を手にとり緊那羅に突きつけると恐る恐る緊那羅が受けとる
「オライは直接竜の宝珠に触れないからの」
「あ…うん」
緊那羅が頷き箱を膝の上に置いた
「で…これからどうすればいいんだっちゃ?」
「開けてみ?」
阿修羅がいうと緊那羅が箱の蓋に手をかけてゆっくり引き上げる
中に入っていたのはもとは阿修羅の首元についていた小さな丸い飾り
それを掌にのせて指でつつくとカコンと音をたてて開いた
金色に輝く小さな欠片をみた阿修羅の顔が険しくなる
「…阿修羅?」
「へ…? …ああ!すまんすまん」
阿修羅が慌てて返事をした
「どうしたんだっちゃ?」
緊那羅が聞く
「いや…ちょい思い出しての…ちょいセンチになっただけやんきに」
目を伏せながら言った阿修羅がため息を吐く
「…すまんけの」
「や…別に…」
謝った阿修羅に緊那羅がぶんぶん首を振って返した
「…竜の宝珠…か」
ボソっと呟いた阿修羅の言葉が聞き取れなかったのか緊那羅が首をかしげる
「…多分ソレに直接触った瞬間一気に竜の力がお前に流れ込むけの…」
欠片に触ろうとしていた緊那羅がビクっとして手を止めた
「そういうのは先にいてくれっちゃ;」
「ハッハッハすまん」
阿修羅が笑う
「…オライ達にはそれぞれ得意な力と苦手な力があるけ…まぁ属性っちゅーもんなんだけどの…見ててわかるとおりかるらんは炎、乾闥婆は水なん」
「うん…」
「そして慧光は花で鳥倶婆迦はカラクリ…ってぇとこか?」
「…あの私は?」
おそらく空の二人の属性は推測で言ったと思われる阿修羅に緊那羅が聞く
「わからんきに」
さくっと阿修羅がソレを切った
「わからん…って私…;」
「まだ宝珠がひとつも完全に色ついてないけの」
阿修羅が緊那羅の腕輪を指さしていうと緊那羅が腕輪を見てため息をつく
「なかなか色ってつかないんだっちゃね…」
「あたりまえやんに; そして…竜の力はムゲン」
阿修羅がゆっくりと口にしたその言葉
「夢幻のムゲンじゃなしにの…幻が無いムゲンなんきに」
「…む…げん?」
緊那羅が繰り返す
「無幻の力は未知での…オライもよくわからんけ…」
「むげん…」
竜の宝珠を見て緊那羅がもう一回呟く
「最強の力にも最弱の力にもなるっつーことくらいしかわからんかっての…最強と最弱という相反するものを両方もっているという…」
「最強と最弱…って…意味がわからないっちゃ;」
「ハッハッハオライもよくわからんきに」
阿修羅がハッハと笑った
「でも…その力があれば京助を助けられるんだっちゃよね?」
一呼吸おいて緊那羅が言うと阿修羅が真顔で頷く
「あとは…緊那羅…」
緊那羅が頷いて顔を上げるとにっこり笑った
作品名:【無幻真天楼 第十三回・弐】雨が止んだなら 作家名:島原あゆむ