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なにサマ?オレ様☆ 司佐さまッ!

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29:俺たちの本音ッ!



「司佐様!」
 客間に入るなり、コトハがそう言った。
 だが、司佐が真剣で恐い顔をしているので、コトハは押し黙る。
「コトハ……」
 一気に、コトハに緊張が走った。
 司佐は深呼吸すると、コトハの肩を掴んだ。
「コトハ。戻って来てくれ!」
 勢い余ったようにしながらも、司佐はそう言った。コトハは目を見開く。
「司佐様……」
「おまえに好きなやつがいるってことはわかってる! でも、諦められなかった。俺をきっぱり振ってほしい。そうしたら、新しい関係が始まると思うんだ」
 司佐の言葉に、コトハは静かに口を開く。
「て、手紙……読んでないんですか?」
「え?」
「読んだから、ここへ来たんじゃないんですか……?」
 司佐はさっき受け取った手紙を思い出し、ズボンのポケットを探った。
「ごめん。バタバタして読んでなかった……今、読んでいいか?」
 それを聞いて、コトハはコクリと頷いた。
 司佐は折り畳まれた手紙を開く。



“山田司佐 様

 昼間は指輪を返せなくてごめんなさい。これを返してしまったら、司佐様との縁がすべて切れてしまうと思い、持っていたのに返せませんでした。
 でも、これを返すので、最後に私の本音を聞いてください。

 このところいろんなことがあり、私の頭はまだ追いついていないのですが、やはりいつも思い出すのは、司佐様のことだけです。子供の頃から司佐様にお仕えするよう育てられた私には、司佐様から離れることは辛いことでしかありませんでした。

 でも、司佐様のことが好きでも、私は気後れしてしまって、司佐様が桃子様や他の女性の方といらっしゃるのを見るのが辛くて、自分の心が真っ黒になってしまいそうで、怖くて司佐様から逃げました。

 これを聞いて、私のことを嫌な人間だと思ったことでしょう。でも、これが本当の私です。最後に本音を言えてよかったと思います。
 私を嫌いになられたら仕方のないことですが、また使用人として置いてくださるお心がございましたら、今度こそちゃんとメイドの勉強をして、お傍でお仕え出来たら幸せです。

 沢木琴葉”



 手紙を読み終えて、司佐はコトハを見つめた。
 コトハは目の前で読まれて恥ずかしそうにしながらも、不安な様子で司佐を見つめている。
「おまえ、初恋の……楠龍太郎は?」
 突然、司佐から龍太郎の名前が出たので、コトハは首を傾げる。
「龍ちゃんが、何か……?」
「好きなんだろ?」
「いいえ! 私たちは、仲の良い親友なだけです。それに龍ちゃんは、私の実のお兄さんだったんですよ?」
 そんな告白に、司佐は目を泳がせた。
「……嘘だろ?」
「本当です。べつに兄妹でなくとも、私は龍ちゃんとなんでもありません。誓って言います」
 自分が勘違いをしていたことに気付き、司佐はほっと息を吐く。
「なんだ。そうだったのか……」
「でも、今でも大切な友達です。望むことは口に出すべきだって言ってくれて……だから私、最後に司佐様に、そんな手紙を書く決心がついたんです」
「ああ……真っ黒な心なんて、俺だって持ってる。おまえのこと、嫌いになんかなれないよ」
「司佐様……」
 司佐は、そっとコトハを抱きしめた。
 もうどれくらいぶりだろう。それは二人の溝を一気に埋めるように、体中に愛が浸透していく錯覚さえ覚えるほど、温かさを感じる。
「じゃあ本当に、俺は嫌われたわけじゃないんだな?」
「もちろんです! 私が司佐様を嫌いになるはずがありません」
 司佐は苦笑する。
「手紙にあったな。もう一度メイドに戻りたいって」
「はい。司佐様さえよろしければ……私もう、桃子様と一緒のところを見ても、嫉妬なんかしません。頑張りますから、どうか……」
「嫉妬しろよ。そして俺にわがまま言ってみろ」
「司佐様……」
 戸惑うコトハが可愛くて仕方がないように、司佐はコトハに微笑み、その頭を撫でる。
「メイドなんか駄目だ。おまえはもう、沢木家の娘なんだ」
 それを聞いて、コトハは絶望した。
「そんな……」
「だけど、俺とずっと一緒にいてくれないか。フィアンセとして……」
 そう言って、司佐はコトハが返してきた指輪を、改めてコトハの指にはめる。
「つ、司佐様……」
「考えてもみろよ。おまえはもう良家のお嬢様なんだ。俺の両親が反対していた家柄の問題はまったくないし、俺の爺さんからも了承を得てる。好きなら突っ走れってね。それでもいろいろ問題はあると思うが、きっと二人なら乗り越えられる。おまえがこれからも、俺に本音を見せてくれるなら……」
 司佐の言葉に、コトハは自分から司佐に抱きついた。
「大好きです、司佐様! ずっとお傍にいさせてください!」
「ああ……でももう、絶対に離さないからな? 覚悟しとけよ」
「はい!」
 二人はしばらく、そのまま抱き合っていた。

 その日、コトハは司佐とともに、山田家に戻った。もちろんメイドではなく、司佐の恋人として――。
「父さん、母さん。コトハはもう、良家の令嬢だ。俺たちの交際に反対する理由はないよな?」
 司佐の言葉に、司佐の父親は苦笑する。
「さっき沢木から電話があったよ。コトハをうちでお預かりしてくれと。うちはもうコトハをメイドとして扱うつもりはない。それでよければここにいてほしい。今まですまなかったね、コトハ」
 司佐の父親にそう言われ、コトハは首を振った。
「いいえ。こうしてまた司佐様と一緒にいられることが出来るのですから、私は幸せ者です」
 両親の目に、微笑ましい二人が映る。もう覚悟を決めたように強く優しく寄りそう二人に、反対する気など微塵も思わせなかった。

 両親への挨拶を終え、二人は廊下を歩いていく。
「コトハ。桃子に部屋を空けてもらうから、とりあえず俺の部屋で待っててくれ。昭人にも行ってもらうから、二人で話でもしているといい」
「私は何処でも構いませんが……」
「駄目だよ。おまえより俺の部屋に近い女の子がいるの、俺が嫌なんだ。おまえももう、くだらない意地を張るな」
 決意を固めた様子の司佐に、コトハは頼もしく思えて頷いた。

「おかえり」
 司佐に言われ、司佐の部屋にやって来た昭人が、コトハを見るなりそう言った。
「ただいま」
「まったく、ヒヤヒヤさせて」
 そう言う昭人も、ほっとしたように優しく微笑んでいる。
「ごめんなさい……」
「いいんだ。これで司佐も元気が戻ると思うし。もう司佐を困らせるなよ」
「はい」
 以前と同じコトハの笑顔に、昭人も安心したのだった。

 一方の司佐は、以前コトハの部屋だった桃子の部屋を訪れる。
「桃子。部屋を明け渡してくれ」
 その言葉に、桃子は涙を溜める。
「聞いたわ。コトハさんが帰って来たって……でも、正式な婚約者は私でしょう?」
 それを聞き、司佐は俯く。
「ごめん……もともと親同士が交わした軽い約束だ。俺は了承してない」
「ひどいわ!」
「わかってる。おまえの気持ちは前からわかってたし、それを受け入れられないのも申し訳なく思う。でも俺は自分の気持ちを曲げてまで、おまえと一緒になろうとは思わない……ごめん」
 きっぱりとそう言った司佐に、桃子はすっくと立ち上がると、大きなトランクに荷物を詰める。