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冬野すいみ
冬野すいみ
novelistID. 21783
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プール

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あの日、僕は泳げないことが悔しくて、同級生にからかわれたことにむきになった。だって千草はあんなにも綺麗に泳げるのに。僕にはできない。水に捕らわれて、見苦しくもがいているばかり。
沈む、沈む。悲しく、哀しく、あわれに。

水は残酷だ。僕を苦しめて楽しんでいるのか。僕はわけも分からず水に飛び込み、ひたすらにもがいた。浅いプールなのに上手く泳げない自分が嫌で嫌でたまらなかった。

そして、そのとき足が攣ったのだ。周りは騒がしく泳いでいる人ばかりで誰も僕の異変に気付かない。
次第に息が苦しくなってくる。
ああ、もう。
なにもかも苦しいよ。こんなにも苦しいのに。涙が塩の味をして、消毒されたプールの水に溶けていった。
水の中では人は生を許されないのかなと思った。

そのとき、誰かが僕を助けに来た。千草だ。
僕はそう信じた。僕を助けてくれるのはいつだって千草だ。

水の中、太陽の光だけが輝いていた。






……そのまま僕の意識は曖昧になり、目が覚めたときにはすべてが終わっていた。

僕の世界は終わった。

千草は死んだ。僕を助けて死んだ。

僕もまた、死んだ。
作品名:プール 作家名:冬野すいみ