~双晶麗月~ 【その4】
ミシェルは冷たい表情のまま、[ワタシ]を避けてソファーに浅く座る。そして自分の足に両肘を置き、両手を組んだ。ソファーから垂れるミシェルの黒いコートの裾には血がついている。乾いているのか少し黒ずんで見えた。
「どうするつもりですか。このままではまたフェンリルがここへ来ますよ?」
「ふふふ、いいんじゃない?だってミシェルは[ワタシ]を護ってくれるんでしょう?」
「何を言ってるんですか」
「護ってくれるんでしょう?ねぇ?」
そう言って甘えた声を出す[ワタシ]は、ミシェルの顔を覗き込む。
どう考えても話しているのは私じゃない……もちろん体を動かしているのも違う……
誰が私の体を使っているのか?でもあきらかにミシェルは私の方を見て話している。
話しているのが私じゃないということ、ミシェルは気付いているのか?
ミシェルは再び[ワタシ]を避けるように立ち上がり、カーテンを少し開けて外を覗いた。外は薄暗い。夕方だ……
「あなたを[護れ]と言うのですか?」
ミシェルがそう言って振り向くと、少しだけ開けられたカーテンの隙間から、窓ガラスが見えた。そこには部屋の中が映っていた。こちらを向くミシェルの背中と、それと向き合う私の姿。
ノースリーブの白いシャツにタータンチェックのミニスカート、これは間違いなく私の服だ。長い黒髪と……もちろん顔も私そのもの。なのに勝手にしゃべる口、勝手にミシェルにもたれ、勝手に動く……!
「ミシェル……アナタできないとでも言うの?」
「時期前に開放してしまったあなたを護る必要などないでしょう?ラシャ……」
『ラシャ』……?
そういえば!あの海底にいた白い悪魔……!確か交代するって言ってた……
誰にでもある深層の泉……その中にいたラシャと私が交代?
『ワタシが表に出られる』って……『ずっと中から見ていた』って……こういうことなのか!?
私はやっとラシャが言っていたことがわかった。
作品名:~双晶麗月~ 【その4】 作家名:野琴 海生奈