~双晶麗月~ 【その4】
窓側にもたれたミシェルは、再びこちらを睨む。
「何を考えているんですか」
「別に…あの雄吾とかいう子を[こっち側]に付けとけば、[あの子]はワタシに逆らえないでしょう?そうすれば[あの子]は……」
「あなたの言う[こっち]とは、どのことを言ってるんですか?まさか狼一族のことではないですよね」
ミシェルの瞳は濃いブルーになってゆく。
「ふふ……冗談よ。でも雄吾って子、反応がとても面白いわ。カンがいいのかしらね。アナタも気付いてるんでしょう?」
「…………」
ミシェルはリビングの扉の方を見つめる。
「それよりねぇ?アナタのその格好、どうしたの?傷だらけじゃない」
「僕のことはいい」
「そう言われてもねぇ……ま、アナタが死ぬわけないとは思っているけどね」
ミシェルは返事もせず、リビングのドアの方を見て、しばらく沈黙していた。
そして静かに指で宙を描き、何か呪文のようなものを唱える。
「軽結界?ここは通常の結界が張ってあるでしょう?必要ないんじゃない?」
ミシェルはまるで全く聞いていないかのように、別の話をし始めた。
「まだ[時期]ではないことはわかっているでしょう?」
立ったまま腕を組んだミシェルは、私の方を向いて話している。
「時期?そんなの、[あの子]がワタシの所へ来た時点で[時期]が来たということではないの?」
[あの子]って誰だ……?
「ミシェル…ワタシはずっとアナタが来るのを待っていたわ。もう百年近くになるのよ?」
ソファーから立ち上がった[ワタシ]は、私の意に反してミシェルの背中にもたれる。
百年だって……?どんな時間軸なんだ!
それに[コイツ]……やけにミシェルに馴れ馴れしい。
いや、雄吾にもだった……[コイツ]何者なんだ……
作品名:~双晶麗月~ 【その4】 作家名:野琴 海生奈