~双晶麗月~ 【その4】
「お…おい!地震…!」
雄吾は慌てて近くの棚に掴まる。
そして室内では音のみならず、家具という家具がカタカタと揺れ始め、棚の上の写真立てや小さな観葉植物が床に落ちる。
「ミシェル!どうするの?カレは[人間]よ!?」
ラシャも、表層に出て初めて出会う気配に恐れているようだった。
緊迫した中、ミシェルはしばらく考え込んだ後、キッチンの方へと走った。
戻ってきたミシェルは、手のひらに乗るサイズの小瓶を持ってきた。
「雄吾君!これを飲むか、すぐにここから離れた場所へ一人で逃げるか、どうします?」
「ミシェル!何言ってんのよ!早くここからカレを出さなきゃ!」
ラシャがそう言うのも聞かず、雄吾は素早くミシェルの持つ小瓶を奪い取る。
「ばっかやろう!飲むに決まってんだろッ!」
そう言って雄吾はその小瓶の中身を全て一気に飲み干した。
「んっ!なんだこれ!ただの水じゃん!」
「何飲んでるのよ!アナタは[人間]なのよ!」
「そうだよただの[人間]だから飲ませてもらったんだよ!これってアレだろ?何かに変身とかすんじゃねぇの?」
雄吾は目を輝かせる。
「変身はしないけど……」
「しねぇのかよ〜!つまんねぇな」
雄吾は肩を落とした。
「それは、ただの水ではないです。先ほど僕がフヴェルの泉から汲んできたものです」
「ほらみろ、やっぱりただの水じゃねぇか」
「ただの水なんかじゃないわ!アナタ……」
ラシャがそう言いかけた時だった。
揺れる室内の照明が全て消えると同時に、さらに全ての窓ガラスが激しく割れる。そこからは強い風が吹き込み、カーテンが大きく波打つ。そして月明かりが差し込む。
「うわっ!危ねっ!」
雄吾はすぐに窓側から離れ、ミシェルとラシャは咄嗟に結界を張り、雄吾に駆け寄る。
「大丈夫ですか!」
「あぁ!こんなくらいなんてことねぇよ!」
その言葉を聞いたミシェルは、力強く答える。
「そう言うと思ってましたよ」
その時ミシェルは、雄吾を見て初めて心の底から微笑んだ気がした。
作品名:~双晶麗月~ 【その4】 作家名:野琴 海生奈