~双晶麗月~ 【その4】
ラシャが凄く動揺しているのが伝わってくる。私とは違う理由で……
「そんなこと、私たちができるわけがないでしょう?」
「そうです。何の訓練もしていない咲夜ができるわけがないんです。なのにあなたはここにこうして咲夜の体の表層に出てきている。しかもフィルグスの封印を両肩につけて」
「何が言いたいの?」
動揺を隠すかのように、ラシャはミシェルを睨む。
「あなたは狼一族の術をかけられたことで、相手の心を操作できるようになったようですね。調べさせてもらいましたよ。少々痛い目に合いましたけどね」
ミシェルは[ワタシ]の反対側のソファーに座って、血の付いたコートの裾をめくる。
「もしかしたら咲夜は自らあなたの元へ行ったのかもしれません。でもあなたが呼ばなければ、今の咲夜の能力では、あそこへは入ることができません」
「ワタシは……!」
「もちろん、あなたに呼ばれるまま、咲夜があなたの元へ行ったとしても、結界があるんですから、それだけではあなたは表層には出られなかったでしょう。もしあなたがその能力を使い、咲夜をコントロールしたとしたら?そして咲夜をコントロールし、自らの魂と呼応させたとすれば……あの結界を破壊することができたはずです。ただ、多少の傷を負いますが」
そう言ってミシェルは立ち上がり、[ワタシ]の手を取った。
【手のひらには傷のあと……あの時のだ。結界を破り、血の垂れた手をあの赤い舌は舐めた……これは……自己治癒能力というのだろうか……?】
ミシェルは掴んでいた手を離し、再び窓の外を見ていた。
「そしてその傷が完治しているのも、狼一族の術のおかげでしょう?」
ラシャは泣きそうな声で言った。
「ワタシはアナタをずっと待っていたのに……この世界に来て、やっと初めて逢えたというのに……」
それを聞いて振り返ったミシェルの目は、濃いブルーになっていた。
「その体は咲夜のものだ。返すつもりがないのなら、手段を選びませんよ?」
静かにそう言ったミシェルの体からは、ダークグリーンの光が放たれ始める。
ラシャは急に泣くのをやめた。
作品名:~双晶麗月~ 【その4】 作家名:野琴 海生奈