出張
「幾らだい?」と聞いても。
「いらんよ、貰ってもしょうがない」
誠に愛想が無い。
駅弁を食べるのは何時以来だろうか?
慣れない事をするものではない、揚げ物にかけるサカナのカタチの容器に入ったソースをスーツの膝に垂らしてしまった。
弁当は美味くも不味くもないものだった。
正直に言うと食った気もしなかった。
空腹が収まると、再び眠気が襲って来た。
夢の中だというのにおかしな事だとは思わなかった。
目を閉じている自覚は有るのだが見えている景色は相変わらず列車の中だった。
ただ、変化が有ったとしたら、先ほどから遠巻きに、私を無視しているフリをしていた連中が私の周りに集まりだした事だ。
そして先ほど私が話し掛けた老人。何やら要領を得ない返事しかしなかった老人が、やや快活さを取り戻して話し掛けてきた。
「どうじゃな?貴方もワシらと旅を続ける決心がついたと思って良いのじゃろうか?」
私には何の事か理解できなかった。
だが、何の統制も無くばらばらに話し掛ける彼らの言葉で何となく言いたい事は分かってきた。