出張
混乱する頭と同様、開いているはずの私の目も何も見ていなかったのだろうか?
暫くすると窓の外を流れる風景に異変が起きている事に気が付いた。
列車は海岸線を走っていた。
私の行く先は山中の盆地にある町だ。
一度たりとも海岸線を走ることはない。
ましてやこの時期に一メートルを超える積雪のある場所など通るわけなど無いのだ。
突然暗くなった。
トンネルに入ったようだ。
大して長くないトンネルを抜けると雪は嘘のように消え、代わりに夜の国が待っていた。
月明かりを反射して田園がチラチラと輝いている。
蛙の合唱が聞こえてきそうな風景だ。
これは夢なのだ。
ここに至ってようやくこの状況に決断を下した。
おそらく初めから分かっていた事だが、私は案外この状況を楽しんでいたのだろう。
もしかすると時間もそれほど経っていないのかも知れない。
起きる決心をして一度目を閉じた。
目を開ければ見慣れた景色が見られる筈だ。