出張
だがそれも私の眠気を追い払ってはくれなかった様だ。
再び目を閉じると、いつの間にか車輪の刻む一定のリズムだけが耳の奥に響いてきた……。
少し大きな揺れが私の目を開けさせた。
どれくらい経ったのだろう。
薄暗い空では太陽の角度で推測する事もできない。
腕時計は止まっていた。
電池を交換したのがいつだったか、思い出そうとしたが駄目だった。
辺りを見回し、ヒトがまばらになっているのに気がつく。
一番近くに座っている老人に「ここはどの辺りか?」と訊ねたが要領を得た返事は返って来なかった。
私はあっさりと諦めてしまった。
自分でも不思議だったが、もう会議に出席する意欲も失せてしまった様だ。
もっとも列車の空き具合から言ってもとうに間に合わないのは明確だったのだが……。
それにしても終点まで二時間半の列車なのに、起こされもせず走り続けているのは何故なのだろう?
ぼやんとした柔らかい日が差し込む。
私は頭の中でいろいろな可能性を検討してみたが、現在の状況を旨く説明できる答は出てこなかった。