戯曲 坐臥
哲学する男:
お前に言われるまでもない。女はいつだってそうだ、己の望みを叶える為、男の前で平気で嘘を吐く。男は騙されるんじゃない。騙されたふりをしてきてやっているのだ、いつの時代もな。
永遠の少女:(小さな子供がからかうように)
いつの時代も? あなたは今しか知らないのに? それも今のほんの一時、ほんの小さな輪の中で生きているのに?
哲学する男:
それでも分かる。人間はそんなに個体差がある生命体なんかじゃない。歴然な差があると思い込んでいる事が、愚かさの証明だ。愚かな事は善だろうか、悪だろうか。善でもあり、悪でもある……。(そのままぶつぶつと一人考え込む)
永遠の少女:(哲学する男を無視して)
ああ、退屈! 私をおいてみんなはどんどん大人になっていった。色んな事を経験して、色んな思いを乗り越えて、そうして私とはうんと離れた所へ行ってしまった。けれど私はまだここにいる。本を読んだ、映像も見た、でも経験したわけじゃない。私は空っぽ。私の心はいつまでも空っぽのまま。私は永遠の少女。経験不足も許される。思慮の浅いのも笑ってすましてもらえる。だって少女だから!
永遠の少女、椅子の横で下を向き膝を抱えて座り込む。
下手より息を潜めて狂い女登場。黒い服を着ているので目立たない。ふいに照明の下へと躍り出て、にゅっと顔を客席に向けると、けたたましい笑い声をあげる。