戯曲 坐臥
愛を知る女:
私達はね、自分の感情を操れないのよ。発作が起こるともうおしまい。どうしたって自分の中のものを吐き出してしまうの。もし吐き出さなかったら、狂ってしまうのよ。そう言う風に作られているの。だから私達は愛を知るのよ。
哲学する男:
そんなものは欺瞞じゃないか。
愛を知る女:
欺瞞でもいいのよ。慰めになれば。この世の全ての事を知る事なんて、人間には到底出来ない事ですもの。
哲学する男:
俺は人間が嫌いだ。すべからく人間は平気で嘘をつく。馬鹿で、粗野でどうしようもない。微生物にも劣る存在にも関らず、虚栄心だけは万物の頂点と来ている。
愛を知る女:
善でもない、悪でもない。けれどあなたは人を悪とも思えない。
哲学する男:
俺は憎んでいる。善でもなく悪でもないものを。
愛を知る女:
あなたは赦しているのよ。善でもなく悪でもないものを。赦すという行為は、まだ人を愛せる証拠なの。だから尊いのよ。
愛を知る女、椅子の横で気だるげに横たわる。
哲学する男、その様子をしばらく見つめた後、顔をそむける。そこへ上手から永遠の少女登場。踊るような足取りで舞台の中央へ。