戯曲 坐臥
椅子が一脚のみ置かれた舞台。
照明は暗く、舞台の全体を伺う事は出来ない。
哲学する男:(苦悩に顔を歪めながら上手から登場)
善でもない、悪でもない、一体なにが正しいのか。
愛を知る女:(楚々とした様子で、哲学する男の後から現れる)
何をまた悩んでいらっしゃるの?
哲学する男:
話したところでお前には分かるまい。
愛を知る女:
話してもいないというのに結果を御存じなのね。
哲学する男:
もちろんご存じだ。女は男よりずっと愚かだという事をだ。
愛を知る女:
まあ素敵! それでこそ、愛する価値が生まれるというもの。殿方はいつだってそうあるべきですわ。男女が対等な、まるで旧来の友人のようなお付き合いをしては絶対に駄目。そんな事をしてしまっては、私たち特有のヒスの相手までなさる事になりますもの。そんなのは誰も望まない事ですわ。殿方はいつだって高い所から見下ろして「はは、愚かなことだ」と笑っていて下さればいいんですの。
哲学する男:
望まれてもいないのに、ぺらぺらとよく喋ることだ。
愛を知る女:(悪びれた様子もなく)
だって女ですもの。
哲学する男:
この世に絶対的な悪という物があるのなら、それはお前たち女なのかもしれない。
愛を知る女:
悪が子供を産めて?
哲学する男:
悪が産むからこの世は腐っているのではないのか。
愛を知る女:
憎んでいるの? でもそんな悪と朝を迎えるのは、だあれ?
哲学する男:
そうして誘惑するのだな。そうして悪の種を増やしていくのだな。