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紺碧塔物語

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 そしてその任された者達が、理由もわからず争い疲弊し合っている。管理を失えば暴走するのは全ての機能について言えることだったが、そうだとしてもこの乱れ方は一体何が災いしているというのか、ソライロには想像もできない。新世界大戦や大陸崩滅に関しては、明確な加害者がいたというのは事実だろう。しかし残り四つの戦争に関しては、明確に人間達が──そして大陸に生きる全ての者達が起こした戦争なのだ。聡明で知られるエルフ達ですら、新世界大戦ではリーンデイル教会に与して戦った。
 誰もが戦いを望んでいる。
 誰もが滅びを望んでいる。
 そんなはずはないと語る言葉に、どれほどの意味があるというのか? 繰り返してきた結果こそが、この大陸に絡みつく乱世の命運を表しているのではないか。
「……ザイナーハ……あなたは、どうして戦うのです?」
「そうすることによって己の正義を守るためだ」
 即答だった。思考の余地すらなく断言する。
 確かにこの男ならば、戦うことと正義を守ることは完全なイコールで結べるだろう。だからこそ《雷獣》の名は常に畏怖と崇敬の響きと共に語られてきたのだ。
 特別でもなく、歪んでもいない。
 複雑でもなく、曲がってもいない。
 ただ単純に、思い描いた正義をありのままに貫き通す。
 僧侶のそれにも似たある種の高潔さが、ザイナーハという存在を絶対強者の位置にまで押し上げている。決して迷わないからこその強さというのは、大陸でもこの男だけに許された唯一の武器だろう。
「……私には、どんな武器があるのでしょうね」
「おまえには《明けの明星》があるだろう」
「そういう意味ではありませんわよ。ただ、戦いを乗り切るだけの強さが……今の私にあるのかという、そういう話ですわ」
 戦争になれば、多くの人命が失われる。だが反撃しなければ蹂躙される──そしてその反撃は、間違いなく戦争の火蓋となるだろう。
(私は──戦えるのでしょうか?)
 あの悪鬼達と刃を交えることができるだろうか。
 無理だ、とは思わなかった。
 ただ、やりたくないとだけ、強く思った。
作品名:紺碧塔物語 作家名:名寄椋司